研究課題/領域番号 |
20K03933
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
岸本 功 山陽小野田市立山口東京理科大学, 共通教育センター, 准教授 (60399433)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 開弦の場の理論 / レベル切断近似 / 数値解 / 単位弦場に基づく解析解 / 二重ブレーン |
研究実績の概要 |
ボゾン的開弦の場の理論の古典解について、レベル切断近似に基づく数値的手法による研究を遂行した。 Siegelゲージの数値解(摂動真空周りの理論のタキオン真空解、および、単位弦場に基づく高橋-谷本のタキオン真空解周りの理論の摂動真空解)をレベル26 まで求めたもの[岸本(2011)]に関して、Schnablによる開弦場の2次の恒等式との整合性を数値的に評価した。レベルを上げると、より正確に恒等式が成り立つことが明らかになり、その結果を具体的にまとめた。 文献[Kudrna-Schnabl(2018)]により、摂動真空周りの理論におけるSU(1,1)-singletな数値解の中に、タキオン真空解以外に「二重ブレーン」および「ゴーストブレーン」を表すと解釈できる(可能性のある)ものがあることが指摘された。そこで、単位弦場に基づく高橋-谷本解周りの理論におけるSU(1,1)-singletなタキオン真空解および摂動真空解以外の数値解をレベル22まで構成し、「二重ブレーン」および「ゴーストブレーン」に対応するものの存在を明らかにした。特に、パラメータ値のある範囲では、低いレベルで実条件を破る解だったものが、レベルを上げると実条件を満たす解になることが判明した。ただし、これらの解の物理的な解釈ははっきりとしなかった。 上述のSU(1,1)-singletな解はSiegelゲージの数値解であり、「二重ブレーン」解や「ゴーストブレーン」解はこのゲージ特有のものかもしれない。そこで、摂動真空周りの理論において、浅野-加藤のa-ゲージでタキオン真空解以外のユニバーサルな数値解をレベル14まで構成してエネルギーとゲージ不変量を評価した。ここまでの計算結果では、パラメータaの値によって「二重ブレーン」が「一重ブレーン」など別の解の分岐に移る可能性があることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ユニバーサルな開弦場の空間における、浅野-加藤のa-ゲージのレベル切断近似による数値計算はMathematicaを用いてレベル14までできる状況で、そこまでで得られた結果は2021年3月の日本物理学会における講演で報告済みである。その後、これをC++に翻訳する作業を行い、a=0 (Siegelゲージ)周りの数値計算はレベル16まで実行でき、かつ、レベル14までの計算ではMathematicaによる計算結果を再現できていることを示すことができた。あとはa=∞ (Landauゲージ)周りのC++への翻訳を済ませればよく、レベル16までならC++であらゆるaの値に対するaゲージの数値解を調べる目処が立っている。実際、本科研費で購入した計算機を用いて「現実的な時間内」に様々な数値解を得て、そのエネルギーおよびゲージ不変量を評価し、BRST不変性の整合性の計算を行うことができることを確認した。 C++への翻訳が完了することで、本研究代表者が利用できる京都大学基礎物理学研究所のスパコン等でも計算を実行できるようになる。したがって、本研究代表者の研究室(山口東京理科大学共通教育センター)に設置した計算機に加えて、この外部機関の計算機も同時に活用することで、Siegelゲージ以外のaゲージでの数値解をMathematicaと比べて圧倒的に速く計算できるようになるため、効率よく研究を進めることができると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
開弦の場の理論の浅野-加藤のa-ゲージにおけるレベル切断近似による数値計算のMathematicaプログラムのC++への翻訳を完成させ、まずはユニバーサルな開弦場の空間において(少なくとも)レベル16まで、タキオン真空解、「二重ブレーン」解、「ゴーストブレーン」解に対応する様々なaゲージ(あらゆる実数a)の数値解の振る舞いを丁寧に調べる。 また、得られた数値解周りの理論を注意深く調べて、それが二重ブレーンを表すものであるか、通常の1枚のブレーンを表しているのか、それとも、別のエキゾチックなものなのか、物理的解釈を与えたい。 さらに、a=∞(Landauゲージ)周りの新たな数値解を探る。このLandauゲージでは、タキオン真空解以外の解は、これまでほとんど調べられていないので、a=0(Siegelゲージ)の「二重ブレーン」解、「ゴーストブレーン」解から「連続的」につながる解以外にも、物理量が発散していかない解が存在する可能性がある、と考えている。レベル2もしくはレベル4に存在する多くの数値解のうち、妥当なものを探ることを検討している。 ユニバーサルな開弦場の空間における数値解の研究を進めた後は、マージナル変形等に対応する、より拡張した空間においてa-ゲージの数値解の構成を行う。これについても、まずはMathematicaによる計算で既知の結果との整合性を確認した後、C++に翻訳してより高いレベルの計算に向かう。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、参加を予定していた日本物理学会や研究会が全てオンライン開催となり、旅費が生じなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度の使用計画としては、(オンラインではなく)通常の現地開催の日本物理学会や研究会が開催されれば、その旅費として使用する。さらに、弦の場の理論の計算を遂行していくと、様々な段階で次第に蓄積されてくる数値データを保存しておくためのパソコン周辺機器(SSD、HDD)や記録メディア(BD、DVD)などの購入費として使用する。
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備考 |
山陽小野田市立中央図書館にて2021年2月13日(土)に開催され、本研究代表者が講師を務めた、第35回サイエンス・カフェ「素粒子物理学の世界~弦の場の理論の数値計算まで~」において、本研究成果の一部に関して簡単にコメントした。
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