研究課題/領域番号 |
20K03939
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
中村 航 福岡大学, 理学部, 助教 (60533544)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超新星 / 数値シミュレーション / マルチメッセンジャー天文学 |
研究実績の概要 |
1987年に超新星ニュートリノが観測され、2016年にブラックホール連星合体からの重力波が初検出された。重力崩壊型超新星は両者を同時に放出するので、マルチメッセンジャー天文学の重要なターゲットである。重力崩壊型超新星が放出するマルチメッセンジャー信号(ニュートリノ・重力波や爆発後に残す中性子星の特徴を含む)とその親星コア構造との関係を明らかにするため、超新星親星の重力崩壊の空間3次元のニュートリノ輻射流体計算を実行した。さらに核反応ネットワーク計算を組み合わせることで、爆発的元素合成で生成されるニッケル56などの重要な元素の合成量を見積もった。 計算の初期条件として、赤色超巨星から青色超巨星への進化や表面組成の異常などのSN1987A親星の特徴をよく再現する最新の連星進化モデルを採用した。空間3次元計算で衝撃波の膨張とやがて超新星爆発に至るであろう結果を得たが、その爆発エネルギーは観測値の10%程度に留まり、合成されたニッケル56の質量も観測からの推定値の15%程度であった。一方で当時のニュートリノ検出器の感度を仮定して算出したニュートリノ検出イベント数は実際の観測と同程度であった。計算時間が不足しているかあるいは回転の効果や一般相対論的効果などの物理を十分に取り込めていないことが原因ではないかと推測している。 中心に残された中性子星の質量やスピン率は標準的な中性子星の値であった。SN1987Aが残したコンパクト天体は未だ発見されていないが、近年ALMAの観測で温度の高い電波源の存在が示唆されている。今後の観測でさらなる検証が進むことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の研究グループが空間3次元超新星モデルを発表するなどの国際的な研究情勢の変化を受けて、当初の計画を前倒しして3次元計算を始めた。さらに他グループとの差別化を見据え、これまでの数値シミュレーションコードに新たに磁場の効果を組み込むことに成功し、バウンス後500ミリ秒という限られた時間ではあるものの、多数の初期条件に対する数値計算を実行・完了させて論文化に取り掛かることができた。詳細な解析を現在進めている段階であるが、爆発エネルギーやニュートリノ・重力波信号、中性子星の質量やスピン率、反跳によるキック速度など、前例のない数のセルフコンシステントな空間3次元超新星モデルに基づいた系統的性質を明らかにする成果である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き数値計算を継続し、幅広い初期条件を網羅する系統的かつ現実的超新星モデルの作成を推進する。今回、新しく磁気流体コードを開発することに成功したので、爆発の際に磁場が流体運動に及ぼす効果や爆発後に残される中性子星の磁場構造を解析対象に加える。特徴的な傾向を示すモデルを選別し、1秒を超える長時間計算を実行することも検討する。マルチメッセンジャー天文学による重力崩壊型超新星の統一的理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行によって、参加を予定していた国際学会が中止や延期、あるいは旅費の支出をともなわないオンラインでの開催となった。また国内の学会・研究会も全て中止またはオンラインでの開催となり、使用する予定で計上していた旅費を使わない結果となった。そこで未使用額と3年目の使用額を合算し、追加でもう1台大型の高速計算機を導入する。超新星の3次元モデル計算は国立天文台のスーパーコンピュータCray XC50で実行するが、並行してポストプロセスの解析計算と核反応ネットワーク計算を効率よく進める。
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