研究課題/領域番号 |
20K03952
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
佐々木 伸 北里大学, 理学部, 講師 (20622509)
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研究分担者 |
木村 哲士 大阪電気通信大学, 共通教育機構, 特任准教授 (20447882)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超弦理論 / 双対性 / Double Field Theory |
研究実績の概要 |
本研究の目的は整合的な量子重力理論である超弦理論において、弦が見る特有の時空構造を明らかにすることである。本年度では超弦理論に現れる双対性(duality)、特に11次元超重力理論におけるU双対性に注目し、時空間への弦理論的補正を解析した。特に超弦理論の統一理論であるM理論に起源を持つU双対共変重力理論exceptional field theory (EFT)に注目し、11次元時空におけるKaluza-Klein (KK) 6-brane解を構成した。本研究ではM理論に存在する膜(membrane)が時空の3次元閉曲面に巻き付く膜instanton効果を双対性に基づいて調査した。膜instanton補正を受けたKK6-brane解は通常の時空間幾何とは異なり、膜のwinding modeに由来する拡張された空間で記述される。この膜instantonは時空がコンパクト化された場合にのみ6-brane解に影響を与え、10次元時空への次元還元を行うことで、type II KK5-brane解の弦instanton効果を正しく再現することがわかった。また、KK6-braneを背景とする3次元membrane世界体積理論としてgauged linear sigma modelを考察し、3次元のBPS方程式が膜instantonとして解釈できることを示した。この結果は先行研究と整合的であり、弦や膜がprobeする時空はEinstein理論とは著しく異なる特徴を持つことが示された。これらの結果を論文にまとめ発表し、学術誌に掲載された。また、string instanton効果に必要な時空の複素構造のT双対性変換について調べ、一般公式を導出した。内容は論文にして発表(2編)し、現在論文誌で査読中である。また、国際会議を含む学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主目的は整合的な量子重力理論候補である超弦理論に特有の時空構造を調査することで、ブラックホールの内部構造を明らかにすることである。点粒子をprobeとして時空間を見るEinstein理論とは異なり、弦理論では広がった弦が時空に巻きつくことで現れる特有の時空構造が存在する。弦の巻きつき効果は弦の世界面インスタントン(worldsheet instanton)として定量的に評価される。 本研究では前年度まで、超弦理論に現れるT双対性を明示的に含むdouble field theory (DFT)を用いて時空への弦の巻きつき効果を調査してきた。DFTは世界面インスタントンの効果を内在していることがわかっている。本研究では特に、弦の巻きつきに由来するT双対共変な幾何構造における大域的な構造を調べた。本年度は調査範囲を整合的な5つの超弦理論を統一するM理論まで広げ、弦に限らず一般に広がった対象(brane)がprobeする時空の性質を調べた。その結果、弦に限らず、膜(membrane)による巻きつきも同様に時空構造を変化させ、Einstein理論とは大きく異なる時空描像を与えることがわかった。 本年度に調査した11次元時空におけるKK6-braneは次元還元することで低次元ブラックホールの構成要素となることから、弦の見るブラックホール時空においても同様な弦理論的補正が現れると期待できる。以上の理由を持って研究は概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主目的は、弦や膜など広がった物体が見る特有の時空構造を通じて様々な時空次元におけるブラックホールの構造を調べることである。これにより、量子重力理論における時空描像を理解することで最終目標となる。本年度はmembraneの巻きつき効果を幾何的に表すEFTの解として11次元におけるKaluza-Klein 6-braneを調べた。この解を表す時空計量はmembraneによるインスタントン効果が織り込まれた拡張空間(extended space)の幾何構造を表している。弦理論では高次元に存在するbrane解を重ね合わせることで低次元空間におけるブラックホール解を構成できることが知られている。前年度はブラックホール解の構成までは至らなかったが、今年度は弦の補正入りbrane解を用いて低次元のブラックホール時空を構成する予定である。現在は前年度の研究をベースにして4次元および5次元の3電荷ブラックホール解を解析中である。研究結果に基づいて今後は国内外の専門家と議論することで新しいアイデアも模索する。 以上のことを念頭に置いて、来年度も積極的に研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続き今年度もコロナウイルス感染症の流行により、予定していた国内・海外出張が軒並み中止またはオンライン開催となってしまった。そのため、本来旅費や謝金として計上していた予算が執行できなくなり、次年度へ持ち越した。コロナウイルス流行の状況次第では持ち越した予算は次年度の旅費・謝金として積極的に活用する予定である。
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