研究実績の概要 |
本研究は, 多重チャネルに拡張された「多重チャネルを結合したグリーン関数法」を用いて, (K-,K+)反応によるダブルストレンジネス核などの生成・崩壊スペクトルを理論的に明らかにすることを目的にしている。信頼性の高い理論計算を実行するためには, 理論的な取り扱いの検討や改善が不可欠である。2年目の2021年度の研究成果は以下の通りである: (1)原子核を標的にした(K-, K+)反応などの生成スペクトルの反応断面積を理論的に評価するためには, 生成されたハイパー核の構造をともに核反応による生成機構の理解が必要である。その記述法のひとつに我々が開発してきた「最適化フェルミ平均」の方法がある。3,4Heを標的核とする(K-,pi0)反応にこれを適用し, 3,4H_Λの基底状態と励起状態の生成断面積を理論的に求めた。その結果,KEKで行われた3,4H_Λの寿命測定実験によって得られた実験値に一致することが分かった。その成果は,学術雑誌から論文として出版された。 (2)一方で「最適化フェルミ平均」の方法を(K-,pi-)反応のΛハイパー核生成に適用した場合,移行運動量が小さいために計算できないという理論的な適用限界の問題があった。そこで歪曲波による核内の局所運動量を考慮することで 「最適化フェルミ平均」の枠組みを拡張することが可能になり,この問題を解決できることを示した。この研究成果は論文としてまとめ,学術雑誌に投稿した。 (3)大強度陽子加速器施設のE05実験で得られた12Cを標的にした(K-, K+)反応によるΞハイパー核の生成断面積の理論解析を行うために,K-とK+の歪曲波をクライン-ゴルドン方程式を解いて求め, 歪曲波インパルス近似計算の改善を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
最近のエマルジョン実験では,Ξハイパー核状態の発見が多数報告されており,Ξハイペロンと原子核との相互作用の新たな情報が得られてきている。また最新の格子QCD計算からΞN-ΛΛ結合の相互作用の性質についても,研究が飛躍的に進められると期待されている。本研究では,目的であるΞNやΞN-ΛΛ結合の核内有効核力の性質を理論的に解明するために,(K-,K+)反応で生成されるダブルストレンジネス核の生成・崩壊スペクトルの計算を計画通りに進めていく必要がある。特に(1)Ξ原子状態の準位レベルと吸収幅を理論的に計算し,Ξ-と原子核間のポテンシャルの性質を調べる,(2)核物質中でのΞN, ΛΛ相互作用やΛΛNの3体力の性質を調べる,(3)微視的模型に基づいた計算コードの開発・拡張を進める,ことが急務である。さらに大強度陽子加速器施設で実施された12Cを標的とした(K-, K+)反応によるΞハイパー核生成スペクトルの理論解析を継続して進める。
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