研究実績の概要 |
本研究は, 拡張された「多重チャネルを結合したグリーン関数法」を用いて, (K-,K+)反応によるダブルストレンジネス核などの生成・崩壊スペクトルを理論的に明らかにすることを目的にしている。信頼性の高い理論計算を実行するためには, ハイパー核生成反応の理論的な取り扱いの検討や改善がさらに必要である。3年目の2022年度の研究成果は以下の通りである: (1)12C(K-,pi-)反応によるΛハイパー核の生成断面積を「最適化フェルミ平均」の枠組みで計算した。「最適化フェルミ平均」の方法は,移行運動量が小さい反応では計算できないという適用限界があったが, 歪曲波による核内の局所運動量を考慮することで,この問題を解決できることが分かった。その成果は,学術雑誌から論文として出版された。 (2)(pi+, K+)反応や(pi-,K+)反応によるΛ,Σハイパー核生成スペクトルを, クライン-ゴルドン方程式を解いて求めた中間子の歪曲波を用いて, 歪曲波インパルス近似による計算を行って, 理論計算の信頼性を高めた。その結果, 生成断面積の理論値は実験値によく一致することが示され, これまでの計算結果を大きく改善することができた。さらにハイパー核の光学ポテンシャルにエネルギー依存性を考慮することによって, Σ準自由(QF)生成スペクトルの実験データをよく再現することが分かった。これらの研究成果は論文としてまとめられ,学術雑誌に投稿されている。 (3)3H_Λの生成断面積はΛ束縛エネルギーに強く依存するため, その相関を理論的に調べた。その結果, J-PARC P73実験による3H_Λの生成断面積の測定によって, いまだ不定性のある3H_ΛのΛ束縛エネルギーの値を確定するための貴重な情報が得られることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
学術雑誌に投稿した論文の査読過程において, さらに労力を費やす結果となり, 出版されるまでに時間がかかった。またコロナ禍によって, 対面による研究分担者との研究打ち合わせや共同作業が十分に行えず, 理論の枠組みや計算方法の問題点などへの対応が遅れた。
|