研究課題/領域番号 |
20K03958
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
梶野 敏貴 国立天文台, 科学研究部, 特別客員研究員 (20169444)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ニュートリノ振動 / 質量階層 / 超新星 / 元素合成 / 銀河化学進化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1.ニュートリノ起源核種とrプロセス元素の太陽系組成を再現できる超新星元素合成モデルを構築すること、2.元素組成比の理論予測と高精度の隕石組成分析との詳細な比較から、太陽系形成論と整合性を持つ銀河化学進化モデルを構築すること、3.原子炉および長基線ニュートリノ振動実験では得られない物質振動効果に関する新たな知見を得ることの三つである。 三年目にあたる2022年度は、昨年度に引き続いて第ニの目的に焦点をあてて研究を進めた。昨年度の研究で、超新星元素合成計算と隕石分析結果との詳細な比較から、核図表上で質量数が90から100を持ち、原子核の安定線から陽子過剰側に位置してアイソトープ比が異常に大きいp核元素と呼ばれる一群の元素の起源が、超新星爆発ニュートリノ駆動風で起きるνpプロセスであることを突き止めた。太陽系に存在する重元素は、γ過程(p過程)、s過程、r過程、ν過程と呼ばれる複数の元素合成過程に起源を持つ原子核からできていると解釈される。今年度は、p元素に関する昨年度の研究成果を銀河化学進化に応用し、他の複数の元素合成過程で作られる元素群とともに重元素の宇宙・銀河進化を研究した。大質量星の進化の終焉でコラプサーと呼ばれブラックホールを残す爆発天体、およびMHDジェットと呼ばれ中性子星を残す磁気回転駆動型の超新星爆発天体で、鉄より重い元素群の約半数を占めるr過程元素が作られるとの結論を得た。中性子星連星系合体は宇宙進化上ごく最近になって寄与することを明らかにし、太陽系組成の約10%程度の寄与であるとの制限を導き出した。これらの研究成果を複数の論文として国際ジャーナル誌に発表した。さらに、これらの爆発的元素合成の研究を、実験的にまだ十分解明されていない不安定原子核反応の影響を理論・実験両面からと解明する研究を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前項【研究実績の概要】に記した成果のなかで、特に、1)アイソトープ比の値が異常に大きく質量数が90~100を持つp核元素の起源が超新星爆発ニュートリノ駆動風で起きるνpプロセスであることを理論的に解明し、銀河の化学進化モデルへの応用から初期宇宙で誕生した超金属欠乏星に観測されてい元素量がコラプサーあるいはMHDジェットと呼ばれる特殊な磁気回転駆動型超新星爆発でのνpプロセスで作られるとの結論を得たこと、2)p核元素だけではなく、s過程、r過程、ν過程などで合成されるほとんどすべての重元素の宇宙・銀河化学進化を明らかにできたこと、3)まだ実験的に十分明らかにされていない不安定原子核反応が爆発的元素合成で重要な働きをすることに気づき、発展的な研究を開始したことは、当初の計画では予想していなかった成果である。このように、今年度は主に理論研究を推進した。原子核物理の理論・実験研究両面にわたる研究体制を構築し始めることもできた。しかし、隕石分析および天文観測による成果を総合的に用いて本研究計画を推進する体制は、まだ構築できていない。このため、研究の進捗状況はやや遅れ気味である。 その主な理由は、当該研究を原子核物理学・素粒子ニュートリノ物理学・隕石科学・天文学などを総合する学際領域研究として推進する計画であったにもかかわらず、新型コロナウイルスがもたらした爆発的な感染症が長引いたために、多くの協力研究者らとの十分な研究連絡のための招聘事業、訪問研究交流、等がほとんど実現しなかったことである。また、研究成果の発表もオンライン国際会議および国内研究会に限られたため、研究旅費も使えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、当該研究を原子核物理学・素粒子ニュートリノ物理学・隕石科学・天文学などを総合する学際領域研究として積極的に推進したい。これまでの研究成果の上に、超新星内部で起きるニュートリノ集団振動、外層でのMSW物質振動、真空振動のメカニズムと物理的条件を元素合成によって明らかにする研究を本格的に行う予定である。 これまでの三年間は、新型コロナウイルス感染症の拡大と長期化によって、当該科研費による研究者の招聘および国際会議・国内会議に現地参加して発表する研究旅費には全く使えなかった。感染症の終息を受けて、国内外の複数の協力研究者の招聘による研究連絡と共同研究の推進、および、国際会議および国内研究会に参加して積極的に研究成果を発表することを再開したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究は国内外の複数の協力研究者と進めているため、研究費の一部はこれらの研究者との研究連絡のための招聘費に充てる予定であったが、新型コロナウイルスがもたらした爆発的な感染症の長期化のため、招聘は実現しなかった。また、研究成果の発表も、主にオンライン国際会議および国内研究会に限られたため、研究旅費も使えなかった。 今年度の後半に新型コロナウイルス感染症がほぼ終息したので、国内外の複数の協力研究者の招聘による研究連絡と共同研究の推進、および、国際会議および国内研究会に参加して積極的に研究成果の発表をおこなうことを再開したい。
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