研究課題/領域番号 |
20K03960
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
野村 大輔 国際医療福祉大学, 保健医療学部, 講師 (40583555)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミューオン / 異常磁気能率 / 素粒子の標準模型 |
研究実績の概要 |
この研究課題が始まった 2020 年4月の時点で、ミューオンの異常磁気能率 (muon g-2) に対する理論値(素粒子標準模型からの予言値)と実験値との間には 3.7 シグマの不一致があることが知られていた。もしこの不一致が理論計算や実験の間違いではなく正しい数字であれば、標準模型を超える新物理の存在を示唆している可能性がある。この 3.7 シグマという数字が本当に信頼に足る数字なのかどうかを判定するには、muon g-2 に対する理論値をより詳しく調べることによって理論値の信頼性を上げることが必要である。この研究では muon g-2 に対する標準模型の予言値の信頼性および精度を改善することを主目的とする。 今年度は muon g-2 へのハドロンの寄与を計算する上で不可欠な QED running coupling へのハドロンの寄与を計算するプログラムに改良を施し、若干の高速化を達成した。これは今後の理論値の精度改善に向けて地道ではあるが着実な前進である。また、muon g-2 の理論値のより正確な評価とさらなる高精度化とを目指すグループ Muon g-2 theory initiative の活動に参加し、著者の一員として論文 T. Aoyama et al., Phys. Rept. 887 (2020) 1 を発表した。この論文で得られた理論値は 2021 年4月7日に米国フェルミ国立研究所から新しい muon g-2 の実験値が発表された際に実験値と直接の比較対象となるなど、muon g-2 を専門とする世界中の理論家の統一見解として大きな影響を与えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020 年度より新しい職場に着任し、多くの授業を受け持つことになった。着任1年目であったため授業の準備に想像以上の時間を要し、コロナ禍での特別対応(学生への対応、オンライン授業への対応など)も重なって、研究時間が十分に取れないという事態に陥った。2021 年度以降は授業の負担も若干は軽くなると思われるので、今後この遅れを取り戻すよう努力したい。
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今後の研究の推進方策 |
2021年4月7日(現地時間)、米国フェルミ研究所 (Fermilab) E989 実験から新しい muon g-2 実験の結果が発表された。彼らの発表によると、 muon g-2 の新しい実験値は従来の実験値 (米国ブルックヘブン国立研究所 (BNL) E821実験での測定結果) と誤差の範囲内で一致する。BNL 実験での結果と合わせると、muon g-2 の実験値は標準模型の予言値から 4.2 シグマ離れている。Fermilab 実験の結果によって標準模型を超える物理が存在する可能性はさらに高まった。 しかし、最近、格子 QCD を用いて実験値とよりよく合う理論値を得たと主張するグループ (BMW collaboration) が現れた。彼らの値は BNL や Fermilab での実験値と近く、もしこれが本当なら muon g-2 にアノマリーは存在しないことになる。 これらの状況を踏まえ、我々が従来使ってきた手法 (dispersive method) と格子 QCD の予言値の違いはどこから来るのかを突き止めたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で外国や国内の研究会が軒並みオンライン開催や中止になり海外渡航や県境を超える国内移動も制限や自粛要請を受けたため国内外への旅費が全く使えず、次年度使用額が生じた。ワクチンの普及により次年度以降は徐々に国内外の状況が好転すると予想され、国内外での研究会も現地開催されることが多くなるものと考えられるため、旅費は次年度以降に使う。
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