研究実績の概要 |
これまでの検出重力波は、強い重力場の領域で発生している。このため、強い重力場を理解することが重要である。まず、強い重力場の探針として、光線の振る舞い(重力レンズ効果)の再検討をおこなった。特に、従来の重力レンズ研究は、ミンコフスキー背景時空(あるいは共形平坦)に基づく。今回、曲がった時空を背景とする手法を探った。その結果、宇宙定数によって曲がった時空、つまり、ドジッター時空を背景時空とする重力レンズの定式化に成功した。この手法は、宇宙定数の大きさに関する近似展開を行わないため、厳密である。さらに、漸近的平坦性の仮定のもとで無限遠極限をとることによって「光の曲がり角」を求めるのが標準的な方法だが、、本手法では、漸近的平坦性を要請しない。また、観測者および光源がドジッターホライズンの直前に位置する場合でも、近似なしで記述できる利点がある(Takizawa and Asada, PRD, 2022)。 また、EHT観測などで注目される、ブラックホールの観測的内縁のひとつである「光球」(Photon Sphere)の再解析をおこなった。光球は、その接線方向に進む光が永久にそのうえにとどまる閉曲面として定義される。その接線方向の光線の曲がり角は無限大となるため、光球近くで散乱する光線の曲がり角は、光球に近づく極限で無限大に発散する。これは「大角度散乱極限」(Strong Deflection Limit)とよばれる。多くのブラックホールやワームホールに対して、この大角度散乱極限が起こることが知られている。しかし、本研究によって、あるタイプの光球では大角度散乱が生じないことを見出し、大角度散乱極限が光球の安定性に依存することを本研究で明らかにした。静的球対称時空において、光球が安定な場合、大角度散乱極限が禁止されることを証明した(Kudo and Asada, PRD, 2022)。
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