研究実績の概要 |
自転する中性子星であるパルサーは微小な歪みをもっていると考えられている。その歪みの測定は、中性子星のような高密度天体の内部構造を決定する状態方程式を直接的に制限することが知られている。パルサーから放出される周期的な重力波にそうした情報が含まれているはずだが、これまでのところ、LIGO-Virgo-KAGRAおよびGEO600の重力波干渉系でそのシグナルは検出されていない。この直接検出は重要な課題のひとつである。しかし、合体波形に比べて、パルサー重力波の振幅はずっと小さいことが予想され、年スケールの膨大なデータのスタックおよび相関をとる作業が必要である。このため、現状の計算機資源では、広いパラメタ空間での探索が困難であった。 今年度、電波観測等によってパルス周期が既知であるパルサーから放出される周期的重力波の探査法を検討した。従来の方法の多くは、フーリエ空間での定式化に基づくため、観測時間全体のデータを観測終了時まで保持し、解析時点にその全データを使用する必要があった。 本研究における最大の新規性は、「実時間」での波形再現法を見出した点である。原理的に、この実時間における再現法では、各時刻のデータをその都度用いるだけで済み、観測終了まで全データの保存および読み出し・計算を行う必要がないという、従来型のフーリエ法にはない特長がある。見出した定式化を用いた解析方法も簡潔に議論した。 さらに、一般相対性理論を超える修正重力理論のうち、リーマン幾何学に基づく重力理論は最大6偏波(テンソル2個、ベクトル2個、スカラー2個)を許す。地球の自転によるレーザー干渉系のアンテナパターンの周期変化を用いることで、この最大6偏波が分離可能となることも示した。特に、従来型の振幅の再現ではなく、「波形」そのものの再現さえ可能な点が画期的である(Kuwahara and Asada, PRD, 2022)。
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