研究実績の概要 |
NanoGravチームなど、複数のパルサータイミングアレイを用いた観測チームが、2023年6月、ナノヘルツ重力波の証拠を公表した。彼らの検出が確定すれば、その重力波の波長は数光年もの長さをもつため、パルサータイミングアレイは宇宙を探査するユニークなツールを我々に与える。なかでも、存在が示唆されている超大質量ブラックホール連星や宇宙初期のインフレーションによる背景重力波などが、そのナノヘルツ重力波の起源として有力である。しかし、超大質量ブラックホール連星からの重力波は、先行研究の多くでは、簡単のため平面波近似されていた。しかし、数十Mpc以内の比較的に近傍にある超大質量ブラックホール連星からの重力波は、波面の曲率が無視できない。この重力波の波面の曲率には、重力波からその波面までの距離の情報が含まれている。大雑把にいえば、球面の半径は、中心から球の表面までの距離だからである。そこで、我々のグループでは、近似を用いることなく、超大質量ブラックホール連星のようなコンパクトな領域から放射される長波長の重力波による、パルサータイミングの遅延を定式化することに初めて成功した(Kubo, Yamahira and Asada, Astrophysical J. 2023)。この定式化は、重力波源の方向だけでなく、そこまでの距離の効果も考慮している。したがって、我々の定式化を用いることで、原理的には、比較的近傍の超大質量ブラックホール連星までの距離をパルサータイミングアレイを用いて推定できることが期待される。
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