研究課題/領域番号 |
20K03970
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川合 光 京都大学, 理学研究科, 教授 (80211176)
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研究分担者 |
吉田 健太郎 京都大学, 理学研究科, 助教 (30544928)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 弦理論 / 量子重力 / 行列模型 / 標準模型 / マルティバース / 自然性問題 / Higgsインフレーション / ブラックホール |
研究実績の概要 |
「標準模型は本当に弦理論の真空か」という問いは、現在の素粒子論にとって最も重要な問題であるといっても過言ではない。これは弦理論の現実性がクローズアップされた、1980年代の中ごろからの大問題であるが、いまだに明確な答えは得られていない。一方、この十年の実験や観測の結果は、低エネルギーからのボトムアップ的なアプローチと、プランクスケールからのトップダウン的なアプローチが大変近いものであることを示している。いいかえると、電弱スケールとプランクスケールの間にある「小さなギャップ」を埋めることで、両者がつながる可能性がある。この「小さなギャップ」としては、暗黒物質、バリオン数生成、宇宙初期のインフレーションなど、場の理論内で解決できるものに加えて、量子重力・自然性問題など、場の理論の考え方自体の変更も考慮する必要がある。 当研究者は長年、“行列模型による時空と物質の創発”と、“自然性に対する新しい理解の試み”の2つの視野を融合させることを考えている。2021年度は、以下のような問題を有機的に結び付けて、上記の「小さなギャップ」の全体像の解明を試みた。 ⅰ)Higgs場の質量および自己結合定数の起源をプランクスケールの物理から解明する。また、その観点からHiggsインフレーションを調べ、プランクスケールに近いエネルギー領域の解明を目指す。 ⅱ)弦理論・行列模型から帰結されるマルティバースを解析し、低エネルギー有効理論としての場の量子論がどのように修正されるべきかを議論し、自然性問題の解明を目指す。 ⅲ)ブラックホールの時間発展を形成から蒸発まで、場の理論の第1原理から解析し、重力の量子論と古典論の本質的な違いを解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた3項目のそれぞれについて発展があり、2020年度および2021年度の2年間で、6篇の論文として公表した。 ⅰ)に関しては、濱田、尾田、柳生氏らとの共同研究において、プランクスケールまで矛盾がないような標準模型の修正の可能性を論じ、そのような模型においてヒグスインフレーション、ニュートリノ質量、暗黒物質の質量などが整合性をもって説明できることを示した。 ⅱ)に関しては、春名、川名両氏との共同研究において、マルティバース等の模型から得られる自然性の解消が、弱電磁スケールがプランクスケールから非摂動的に得られる可能性を示唆していることを示した。 ⅲ)に関しては、Ho,横倉両氏との共同研究において、ブラックホールの水平線近傍での場の相互作用を調べ、古典的な等価原理が量子論の極限としては得られないことを示した。これは、古典重力と量子重力の本質的な違いがどのようなものであるかを理解する一歩となると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で述べた3項目のそれぞれについてさらに考察を進め、「標準模型は本当に弦理論の真空か」という問いに対する答えを見つけていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
covid19 のため、海外との人的交流がはかどらず、また、国内での移動も制限を受けたため、もっぱら各研究分担者が所属している研究機関を中心として活動した。2022年度以降はこのような制限も緩和されると思われるので、本来の内外との交流を中心とした活動を行っていきたい。
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