研究課題/領域番号 |
20K03974
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
河野 宏明 佐賀大学, 理工学部, 教授 (80234706)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パーシステントホモロジー / 量子色力学 / 現象論模型 / クォーク / 相転移 |
研究実績の概要 |
この研究では、パーシステントホモロジーの手法を用いて、量子色力学の格子計算やその現象論的模型の計算結果を分析し、その相構造を研究する。すべての物体は原子でできているが、その中心にある原子核を構成する陽子や中性子はクオークと呼ばれるより基本的な粒子で作られている。通常の温度や密度では、クォークの間に強い相互作用が働きクォークは陽子や中性子の中に閉じ込められている。これをクォークの閉じ込めという。また、このような状態ではクォークはカイラル対称の自発的破れと言われる現象のため、本来の質量よりはるかに重くなっている。一方、高温や高密度の量子色力学においては、閉じ込めやカイラル対称性の破れ以外の性質をもった相の存在が予想されている。しかし、それらの相は、従来の秩序変数による分類だけでは明確に分類のできないものである事が指摘されている。この研究は、最近急激に発達してきた、パーシステントホモロジーの手法を、量子色力学やその現象論模型の統計力学的計算におけるシミュレーションで作成された配位に適用し、トポロジー的な手法を用いて、その相構造を解析する事を目的にする。パーシステントホモロジーの方法では、データ空間のデータ分布を解析し、そこに穴のような構造ができるかをマルチスケールで解析することにより、データの持つトポロジー構造を調べる事で物質相の分類を行う。この1年間においては、前年度に引き続き配位の生成や模型の改良や分析を行ったが、最終目標のパーシステントホモロジーの解析もかなり進める事ができた。それらの結果の一部は、格子量子色力学の国際会議で発表されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究では量子力学の格子計算や現象論的模型において、有限温度や有限密度のもとでの統計力学計算を行い、その配位や物理量の分布をパーシステントホモロジーの手法を用いて解析する。現在までのところ、研究計画の第1年目は主に配位の生成、物理量の生成を主に行ってきたが、第2年目である令和3年度は最終目標である格子量子力学の物理量についてのパーシステントホモロジー解析も初歩的な段階であるが行う事ができた。昨年度は従来から使用していた大阪大学のスパコンが新型に更新されたため、プログラムを新しいコンピューターに適応させるなどの必要があったが、それらの作業を比較的スムーズに行えた。一方、量子色力学の有効模型(現象論的模型)であるPotts模型や有効ポリヤコフループ(ライン)模型については、模型自体の研究もさらに進み、配位数などもある程度十分に得られたので、それらの配位や物理量を用いて、パーシステント・ホモロジーの分析もさらに進行させる事ができた。特にPotts模型では解析が進み、ポリヤコフループの分布のパーシステント・ホモロジーの解析から、平均的な穴構造の生成時間と消滅時間の比を分析した。それらの結果は国際会議で発表された。以上より、この研究事業はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は量子色力学やその現象論的模型における配位の生成、パーシステント・ホモロジーの解析をさらに進めるとともに、パーシステント・ホモロジーを使った新しい分析手法の開発なども試みていきたい。現象論的模型である有効ポリヤコフライン模型のプログラムにおいては、まだ、計算速度が十分に速くないものがあるので、高速化を図り、配位データの質と量における改善を図りたい。格子量子色力学の計算においては、比較的計算時間が少なくてすむ、純ゲージ理論の分析を本格的に行っていきたいと考えている。純ゲージ理論は対称性が明確である点も分析に適していると思われる。特に中心対称性に着目し、クォークや色の閉じ込め機構に関係するセンタークラスターなどの分析をし、センターボーテックスの分析についても検討していきたい。さらにはダイナミカルなクォークを含んだfull QCDを用いた計算も進行させていきたい。得られた結果は、適宜、研究会や論文等で発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定通りほぼ使い切ったが、年度末の時点で少額が残った。使用内容的にはコロナ感染拡大の影響で出張ができないなどの事もあり、使用方法が限られた面もある。残額は、次年度に、次年度の交付金と合わせて、物品(消耗品を含む)の購入や旅費、計算機使用料等として使用する予定である。
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