研究課題/領域番号 |
20K03975
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
前田 健吾 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (10390478)
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研究分担者 |
石橋 明浩 近畿大学, 理工学部, 教授 (10469877)
飯塚 則裕 大阪大学, 理学研究科, 助教 (40645462)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | AdS/CFT双対性 / 光的エネルギー条件 / 強結合な場の理論 |
研究実績の概要 |
ブラックホールなどの曲がった時空における強結合の場の理論において、その光的エネルギー条件がどの程度成立しているのかを検証することは、一般相対性理論における基礎的問題を理解する上で非常に意義がある。特異点定理やブラックホールのトポロジー定理などの一般相対性理論における基礎定理は、すべて光的エネルギー条件を仮定して証明されており、この条件なしには成立しない。一方、自由場などの相互作用のない量子場では、カシミヤ効果などによって一般に破れている例が存在することが知られている。マルダセナが提唱した負の宇宙項を持つアンタイドジッター時空と、その境界時空に住む強結合な場の量子論が一対一に対応するというAdS/CFT双対性は、強結合な場の量子論の性質を理解する上で有力な解析手段である。本年度は、このAdS/CFT双対性を用いて、境界時空が偶数次元の場合に、新たな光的エネルギー条件を導くことに成功した。偶数次元では、共形変換に関連するワイールアノマリーが存在することが知られており、曲がった時空では曲率テンソルの複雑な関数となっている。本研究では、この新たな光的エネルギー条件を導出するにあたり、no-bulk shortcut 原理を第一原理として採用した。no-bulk shortcut 原理は、境界時空上の任意の二点を結ぶ最も早い経路は、境界時空上の光的測地線で与えられるというものである。これが破れていると、境界時空上では、光速を超えて情報が伝達してしまうので、強結合な場の量子論としては問題が発生する。本研究の結果、光的測地線に沿って光的エネルギーを重み付きで平均化した量は、下限値を持ち、それは曲率テンソルで構成される関数を測地線に沿って平均化した幾何学量で与えられることを解析的に導いた。この結果はJHEPという雑誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、境界時空が偶数次元の場合、光的エネルギーを共形不変な重みで平均化した量には下限値があることを導くことができた。また、ブラックホール背景時空においても、エンタングルメントエントロピーについて第一法則に関する結果が出つつあり、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでブラックドロップレット解に代表されるように、漸近的AdS時空では新規のブラックホール解が数多く数値的に見つかっている。これらのブラックホールはAdS境界時空に付着しており、ブラックホールを含む境界時空での場の量子論の解析に重要な役割を果たす。特に近年着目されているのが、境界時空上でのエンタングルメントエントロピーの性質を暴くことである。これまでの研究では、境界時空が平坦な場合に限り、第一法則などが解析的に導かれてきたが、ブラックホールを含む曲がった時空での検証はほとんどない。ブラックホール時空上では、ブラックホールのエントロピーとその外側にある量子場のエンタングルメントエントロピーの和が単調に増大するとする第2法則など、エンタングルメントエントロピーに関する諸々の法則が成立していることが期待されている。本年度は、ブラックホールを含むAdS境界時空において、エンタングルメントエントロピーの基礎的性質を解析的に暴いていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で旅費を使用できなかったので、次年度への繰り越しが生じた。次年度については、高度な数値計算をするための数値ソフトや論文をスピーディーに仕上げるためのパソコンを購入する。
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