研究課題/領域番号 |
20K03976
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
村田 佳樹 日本大学, 文理学部, 准教授 (00707804)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 一般相対論 |
研究実績の概要 |
近年の超弦理論の発展により、強結合領域の場の理論とブラックホールが等価な性質を持つことが予言された。この等価性はAdS/CFT対応と呼ばれている。反ド・ジッター(AdS)時空中のブラックホールの不安定性は場の理論における相転移現象に対応するので、その理解は場の理論の相構造を理解する上で特に重要になる。しかし、AdS時空中における一般相対論の研究は十分進んでいるとは言えず、特に回転ブラックホールの非線形ダイナミクスに関してはほとんど理解されていない。本研究の目的は、回転ブラックホールの不安定性の非線形ダイナミクスを解き、その終状態を特定することである。 我々が発表した論文"Superradiant instability of black resonators and geons", (JHEP 07 (2020) 206)では、終状態の候補の一つである共鳴ブラックホール解に対して安定性解析を行った。その結果、共鳴ブラックホール解は高い波数を持つモードに対して不安定になることが示された。これは、回転ブラックホールの不安定性の非線形ダイナミクスによって、エネルギーが高波数のモードに輸送されていることを示唆している。 また、論文"Resonating AdS soliton"(JHEP 08 (2020) 136)では、共鳴ブラックホール解を構成した手法を応用することで、新しい漸近AdS解(Resonating AdS soliton)を構成することに成功している。この解は、AdS solitonの非線形振動を表す解である。このResonating AdS solitonは、AdS solitonより高いエネルギーを持つことが示され、正エネルギー仮説を支持する結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
回転ブラックホールの不安定性の非線形成長を調べるためには、まず回転ブラックホールの線形摂動のどのモードに不安定性が生じるかを詳細に解析する必要がある。本年度は共鳴ブラックホールの安定性解析に成功しており、本研究計画の第一歩が完了したことになる。それゆえ、本研究課題は当初の研究計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
以下の計画で今後の研究を推進する。 1.高い振動数を持つ共鳴ブラックホール解の構成 共鳴ブラックホールは、定在重力波の持つ固有振動数で特徴付けされる。先行研究で超放射不安定性の終状態として予言されているのは、固有振動数が無限に大きい共鳴ブラックホール解である。よって、我々は特に高振動数を持つ共鳴ブラックホールを構成する。共鳴ブラックホールの相図を決定し、熱力学的な安定性を調べる。 2.超放射不安定性の非線形シミュレーション SU(2)対称性を保つ条件下で、超放射不安定性の非線形時間発展を追う。終状態のブラックホール解を特定し、それが場の理論側でどのような相に対応しているのかを決定する。裸の特異点が形成された場合は、それが場の理論側でどのようなシグナルとして現れるかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスにより、海外出張に行けなかったため。状況が改善されれば、次年度使用額は旅費として使用し、研究成果発表を積極的に行う。改善されない場合は、数値計算効率を上げるための計算機を導入するために使用する。
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