研究課題/領域番号 |
20K03977
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
三島 隆 日本大学, 理工学部, 教授 (70222320)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 重力波 / Einstein-Maxwell 方程式 / 厳密解 / 非線形現象 / 調和写像 |
研究実績の概要 |
初年度、円筒対称性を課したアインシュタイン-マックスウェル方程式の新奇な特徴を持つ重力波・電磁波の混合解を構成するため、この方程式を対称性によってエルンスト方程式に落とし込み調和写像的手法を適用して解を構成する簡便な手法を提案した。その手法の概略は、基底空間から標的空間への調和写像解を求めるための手続きを以下のように二段階に分けて行うものである。第1段階では標的空間内の全測地的部分空間の埋め込み写像を求め、第2段階では基底空間からこの部分空間への調和写像解を構成し、最後に両写像を合成することによって最終目標である調和写像解を構成するというものである。2021年度はこのアイデアを基にして、以下に記すようなシンプルだが新奇性を持つ解を構成しその物理的特徴を明らかにした。 解の構成は、中間段階の調和写像解として2017年に報告者が豊田工大の富沢真也氏と構成した円筒対称真空重力波解を採用し、全測地的曲面には単純だが非自明性を持つハリルソイの埋め込み方を使い、両者を合成して重力波と電磁波の結合解を導出するという手順で行った。 次に得られた解の物理的特徴を明らかにするため、初期条件として対称軸の近傍に強く集中した重力波と電磁波が軸から外に向かって急激に膨張しながら拡がるときに、電磁波と重力波の振舞いがどのように変化するかをCエネルギーと呼ばれる保存量に着目して調べてみた。特に、今年度は重力波と電磁波の間に大きな転換現象が起きるかどうかに注目して解析を進めた。この結果、初期条件として軸近傍に強い重力波と相対的に非常に小さな電磁波を用意しパラメータをうまく調整すると、波が拡がるに連れて電磁波が重力波のエネルギーを速やかに吸収して大きな増幅を起す場合があることが分かった。このような新奇な非線形性を体現する厳密解は、重力波の物理ひいては重力物理全般の新たな展開に対して重要であろうと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021度は、初年度同様「(3)やや遅れている。」と「(4)遅れている。」の間であった。その理由としては、やはり一向に沈静化しないコロナ禍にある社会情勢のためである。学会・研究会への参加・発表や研究協力者の富沢真也氏との研究打ち合わせについては、Zoom等のオンラインシステムを用いて行うことはできたが、小規模な研究室では、研究会に出向くなどして様々な研究者と直接対面で議論などができないため、研究活動が限定的となった。そのような状況において、前回の報告書(様式F-7-1)の「8.今後の研究の推進方策」で述べたものについて重要な研究成果(項目5. 研究実績の概要参照)を達成することはできた。 2021年度は、初年度の終わりまでに完成した合成調和写像による手法を適用して電磁波と重力波の結合を表す2パラメータの厳密解を与え、その中から物理的に興味深いと考えられる解を選び、次にその解の性質や振舞いを明らかにすることにエフォートを集中させた。当初の予定では、具体的な厳密解の形を与え物理的な議論を行った後、速やかにその結果を日本物理学会で発表し論文を欧文雑誌へ投稿する予定だったが、具体的な厳密解を構成するための計算が思った以上に複雑であったことや、得られた波動解の物理的な特徴を抽出するための物理量の決定に多くの時間を費やしたため、様々な解について包括的な解析を行う代わりに、最も興味深いと思われる解を選び、その解に研究を集中させることで研究を進め2月にまとめた。当該論文は、すでにプレプリントとしてe-Printアーカイブに提出されており、現在欧文雑誌に投稿中である。 また、途中の結果については、9月の秋季日本物理学会や日本で12月初旬に開催された国際研究会(JGRG WORKSHOP 2021)並びに昨年末に開催された特異点研究会でオンラインによる発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度はこれまでの研究活動をまとめ、さらに発展させるべくエフォートの投入を行いたい。2021年度の研究は、構成した重力波・電磁波結合解の中から、興味深い現象を表す解をうまく選び、その解の物理的な性質に集中して解析を行うといった形で行った。この結果は短報として論文(投稿中)にまとめた。これを受けて当面の研究活動を以下のように進める予定である:(1)今回開発した手法の体系的説明や解の時空構造の解析、また本手法の範囲内で扱うことのできる他の一般解の物理的性質などをまとめてフルペーパーの形で論文を完成させる。(2)さらに、本手法を用いると物理的・数学的設定が大きく異なる解(例えば中間段階の調和写像解として、定在波解や複数の波束が衝突する解、あるいはソリトン解、またはK-K理論等の高次元時空解)も生成できるので、これらの解についても並行して解析を行い別途まとめる。特に(2)については本質的に新たな物理的展開に対応する解が得られる可能性があるものと期待している。 上記(1)については、すでに手法は確立されており、具体的な解析内容も明確であるため、比較的短期間に達成できるものと考える。(2)については、ソリトンの扱いが必要となるが、これについては研究協力者の富沢真也氏と2015年に行った真空重力系のソリトン波解に関する仕事を直接利用できるものと考える。 現在の社会情勢下では対外的な研究活動は、今なお限定的ではあるが富沢真也氏とZoomを用いた打ち合わせはこれまで同様に行うことができるので、同氏との議論・検討を通して上記の研究活動を進めていく。社会情勢が好転した場合は、同氏を直接訪問して打合せを行うと同時に、他の研究者との交流も積極的に行いたい。また、並行して研究成果を論文としてまとめ、その成果を日本物理学会やJGRG Workshop、あるいはその他の内外の研究会に於いて発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、2021年度もコロナ禍の影響が続いたため直接的な人的交流が全般的に制限されたため、研究交流や学会・研究会出張等に係る旅費、並びに知識・情報の供与に係る謝金などの経費が発生しなかったためである。 一方、科学計算用の総合ソフト「Mathematica」については、本務先の方針により、急に2021年度以降実質的に使用できなくなったため研究活動に大きな支障が生じるところであった。しかし科研費のおかげで必要なライセンスを購入できたため、研究活動を維持できたことは大いに助かった。 次年度以降の科研費の使用計画であるが、本報告書作成時点においてコロナ禍の勢いはなお予断を許さぬ状況であるが、2022年度の後半からは徐々に緩和されるものと予想されるので研究交流や研究結果の発信のための旅費・謝金等に科研費を用いる予定である。また、科研費によって科学計算用ソフト「Mathematica」のバージョンアップや保守の費用、基礎文献の資料代など研究遂行上必要な物品等の購入を行う。
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備考 |
「円筒対称時空解を用いた電磁波重力波の転換現象」:第22回特異点研究会に於いて2021年12月に口頭発表 「Conversion of gravitational and electromagnetic waves without any external background fields」:e-print arXiv:2202.12060 [gr-qc]
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