研究課題/領域番号 |
20K03977
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
三島 隆 日本大学, 理工学部, 教授 (70222320)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Einsstein-Maxwell方程式 / 重力波と電磁波の厳密解 / 非線形現象 / モード転換現象 |
研究実績の概要 |
2022年度は得られた解とその結果を基に一般化や応用へと研究を展開し、論文としてまとめる予定であった。しかし、それまでの社会情勢等により研究の進行が遅れたため、結果的に成果の取りまとめまでには至らなかった。以下2022年度に継続して行った研究の展開と新しい試みについて報告する。 前年度末にまとめた論文(あらためて投稿中)では、より現実的な物理的設定と思われる長楕円体状に集中した重力波・電磁波のエネルギー塊の時間発展を、円筒状の重力波・電磁波の振舞いで近似するというアイデアを提案し議論した。当時は不明瞭な部分が残っていたが、今年度は研究会等でその方面の複数の研究者と議論を行い、十分意味はあるだろうとの感触を得た。さらに、関連してソーンの「フープ予想」を援用することによって、ブラックホール形成が生じるかどうかの境(ブラックホールは十分コンパクトでないと形成されない)では重力波・電磁波間の大きなモード転換現象が発生する可能性があることを予想した。これらの成果は、以前の論文をシェイプアップした上で正規の論文として再投稿した。また、本研究課題と関連する新規の試みを2件、2022年度に立ち上げた。1件目は、これまでの真空中における厳密解の手法を磁場が外場として存在する場合に応用し、磁場の存在がモード転換に及ぼす影響を明らかにするというものである。具体的には一様定常な磁場を持つメルビン宇宙解を円筒対称波解と合成して厳密解を構成するものである。最も簡単な場合について、結果の一部を3月の学会で紹介した。2件目は、申請時に計画していたブラックホールやブラックリング等を何らかの外場中に置き正則な多重ブラックオブジェクトを構成するという試みと関係する。今年度は、膨張するバブル宇宙の生み出す重力場を用いるとうまく正則性が保持できることを見出した。これも3月の学会で発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2022度は「遅れている」とした。主な理由は研究スタート時直前に発生したコロナ禍の影響が長期に続いたためである。報告者は、今年度体調不良が続いたが昨年春の罹患の影響もあったと考える。いずれにしても、直接対面で研究者と接することができるようになったのは秋以降であった。 まず、昨年春先にレター版として投稿した論文について報告する。レフェリーから専門的過ぎる旨のレポートがあったためレター版をあきらめ、通常の論文形式に書き直し別のジャーナルに投稿することにした。研究協力者の富沢真也氏(豊田工大)の職務の都合等のため、構成の検討や修正に手間取り2月にずれ込んだがなんとか再投稿した。特に最後の議論の部分については、「研究実績の概要」に記したように、円筒対称波解を近似的ではあるがより現実的な状況に適用することを考えた。このような状況ではブラックホール形成の可能性が生じるが、形成されるかどうかの境界では興味深い現象が生じる可能性について指摘することができた。また、並行してこの第1論文に対するレヴューを含めたフルペーパー版の作成に取り掛かった。次に2022年度は、やはり「研究実績の概要」で触れたように二つの試みを新規に立ち上げた。1件目は、これまで行ってきた真空中における重力波・電磁波の転換現象の解析を、磁場などの外場が存在する場合に拡張し、転換現象がどのように変化するのかを解明するものである。準備等はある程度終わり、結果の一部については春の学会で報告した。2件目は、申請時の計画として後半に設定していたものと係る。研究は豊田工大の富沢真也氏と鈴木良沢氏と行っている。多重ブラックオブジェクトを無から生成された膨張するバブル時空の中に置き、時空をうまく正則に調整し、ブラックオブジェクトの熱力学的性質等を調べようというものである。この結果の一部は3月の学会で発表された。
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今後の研究の推進方策 |
延長申請が認められた2023年度は、これまで社会情勢や個人的事情等により遅滞した研究の挽回をすべくエフォートを集中する。幸い感染症に係る社会情勢も好転しつつあり、関東圏以外の研究者との活発な交流も望めるものと期待している。研究のための手がかりや技術的な手法はほぼ用意したので、年度前半は研究を発散させずに収束させることを最優先し、論文の作成・出版に専心する。後半はこれまでの研究の継続としてその応用や一般化を図るとともに、得られた知見を通して見えてきた新たな試みに挑戦する。 まず、直接的・継続的試みとして、今年度実施できなかった研究を進める。具体的には、シード解としてソリトン解を利用するもの、高次元時空を含むより一般の重力モデルへの応用等を取り上げる。また異なる興味深い試みとして、メルビン宇宙モデルのような一様磁場が存在する時空解と真空中を伝播するより一般的な波動解を非線形的に重ね合わせて解を構成し、その解を用いて重力波・電磁波間の転換現象を詳しく調べる予定である。後者については、すでに解の生成法は、ほぼ目処がついており予備的な解析を進めている段階である。 一方、前述の磁場宇宙と真空中の波動解を重ね合わせるための手法の基となるアイデアは、1976年のエルンストによる磁場宇宙のブラックホール解の生成の研究を参考にしたが、このアイデアは、より現代的観点から眺めるなら、様々な状況に適用できるものと考えられる。例えば、報告書の前項で述べた正則時空中の多重ブラックホールを構成するために用いたバブルの代わりに磁場を用いることは、発想としては自然である。そこでこのような解を構成するために、このエルンストの手法を用いることは有効であろうと考える。これについては、富沢真也氏や鈴木良沢氏らの豊田工大のグループと直接交流によって議論を行い研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、本務先の職務等の事情もあるが、やはり当初より続くコロナ禍の影響により直接的な人的交流が全般的にできなかったため、研究交流や学会・研究会出張等に係る旅費や謝金などの経費が、2022年度の半ばまでほぼ発生しなかったことにある。 延長が認められた次年度は、コロナ禍による人的移動の制限などもかなり緩和されるようなので直接対面による研究交流や研究結果の発信も活発にできるものと期待している。そのため旅費等として科研費を使用したい。また、状況によっては、科学計算ソフトのMathematicaの保守の費用や基礎文献の資料代などに充てたい。
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備考 |
「円筒対称重力波・電磁波転換現象からの一つの予想」:2022年12月名古屋で開催された第23回特異点研究会に於いて口頭発表 「円筒対称時空上の電磁波-重力波の厳密解を用いた非線形現象の解析」:2023年3月京都で開催された: 研究会「生物から宇宙までの非線形現象2」 において口頭発表
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