研究課題の最終年度は、高エネルギー原子核衝突において生成が期待させるグラズマ状態から放出される直接光子に、幾何学的スケーリングが見られるか検討を行った。これは、これまでの研究課題で進めてきたハドロンで示してきた、幾何学スケーリングを直接光子に適用することでハドロン化の過程に邪魔されることなく、より直接的にグルーオンの飽和描像に基づく幾何学スケーリング則が成立しているのかを検証する研究となる。しかし一方で、光子は、相対論的重イオン衝突で生成されることが期待されるQGPからだけでなく、非平衡状態で、等方的ではないグラズマ状態からの寄与も考慮に入れなければならない。 グラズマはカラーフラックスチューブにより現象論的に記述されることが期待されている。現在、このグラズマからの直接光子生成の理論的な計算は、相対論的流体模型のアトラクター解を用いられることが多い。最終年度は、申請者もこの手法での直接光子計算を当初は考え、その結果を利用して幾何学スケーリングの成立の有無を検証しようと考えていた。そのような折、2次元量子電気力学の理論でのハドロン生成の先行研究があることを知った。さらに、量子色力学においても、2次元での先行研究があることを知った。この理論形式は、クォーク・グルーオンのダイナミクス基本理論であるQCDを、カラーフラックスチューブの特徴であるビーム軸方向に強く引き伸ばされた状況を記述するのに、この上なく適している理論である。そこで、現在は、2次元QCDの理論を使って、カラーフラックスチューブ内のクォークやグルーオンの分布関数の計算に着手している。最終年度で、研究の方向性を変えたことにより、成果の発表に遅れが出ているが、カラーフラックスチューブからの粒子・光子生成の理論としては大変興味深いものとなると自負している。これらの研究の成果がまとまり次第、学会や査読付き雑誌にて発表したい。
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