研究課題
本研究は、国際宇宙ステーションに設置されたCALET検出器によって得られた長期間観測データをもとに、宇宙線原子核成分の強度の時間変動を求めることを目的としている。令和2年度は、ある緯度・経度にある方向から入射することのできる宇宙線原子核の Rigidity の下限(Cutoff Rigidity)の計算を行い、地球磁場を用いた宇宙線原子核のGeV領域での強度を算出する手法について検討を行った。まず、地球上のあらゆる緯度経度から反粒子を鉛直上方へ射出し、それを追跡する方法で、Cutoff Rigidity の世界地図を作成した。粒子のRigidityを少しずつ変えながら、磁場中の荷電粒子の運動を追跡し、地球磁気圏を脱出した時点で、その粒子は無限遠から入射可能であると判断した。こうして地球磁気圏から脱出できる最小の値を求め、それをCutoff Rigidity とした。一般的には、この境界の値は一義的には決まらず、脱出できるRigidity領域と脱出できないRigidity領域が交互に現れる。penumbra と呼ばれるこのあいまいな領域の扱いはまだ検討中であるが、現在のところ平均値を Cutoff Rigidity として用いている。当初の計画では、こうして求めた鉛直方向の Cutoff Rigidity を用いて強度スペクトルを算出する予定であったが、(1) Cutoff Rigidity の精度を上げる、(2) 有効立体角を大きくとる、という2つの観点から、あらゆる入射角について Cutoff Rigidity を求め、対応する微小立体角に入射したイベントの個数をカウントして強度を算出する方法を採用することにした。これを宇宙ステーションの軌道に沿ったあらゆる緯度・経度について計算するのは膨大な時間がかかるため、現在どれくらいのステップで計算を進めるかを検討中である。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、鉛直上方のCutoff Rigidity の世界地図を作成し、それに基づいて解析方法の検討を行い、斜め方向の立体角も含めた新しい強度算出法の採用に至った。Penumbra の取り扱いはまだ検討中ではあるが、実測値を用いた試験的なスペクトル算出の結果も良好であり、おおむね順調に進展していると判断する。
現在、Cutoff Rigidity の計算を行う緯度・経度のステップ数、入射方向立体角の刻み方を計算精度と計算時間の双方から最適化するべく検討中であるが、新しい計算サーバの導入により、状況を少し改善できる予定である。実際の観測データとしては、第一にヘリウム核の強度変動の結果を算出する。ヘリウム核は観測数としても十分に多く、月単位あるいはそれより短い時間スケールの変動を観測できる可能性がある。そのうえで、より強度の小さい酸素核、シリコン核、鉄核などについてもGeV領域の強度スペクトルを算出し、太陽変調のみならず、高エネルギー領域の観測データを補填するデータを提供していく予定である。
新型コロナウィルスの影響で、学会や研究打合せの出張予定がすべてキャンセルとなり、大幅に使用計画が変更となってしまった。次年度使用額については、予定していたものよりも高性能の計算サーバを購入する計画である。
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Physica Scripta
巻: 95 ページ: 074012~074012
10.1088/1402-4896/ab957d
Physical Review Letters
巻: 125 ページ: -
10.1103/PhysRevLett.125.251102