研究課題
本研究は、国際宇宙ステーションに設置されたCALET検出器によって得られた長期間観測データをもとに、宇宙線原子核成分の強度の時間変動を求めることを目的としている。令和2年度までに、地球磁場中での反陽子の軌道を追跡して、入射宇宙線原子核のRigidity の下限(Cutoff Rigidity)を計算する方法はほぼ完成した。令和3年度はこの手法を実際の観測データに応用して、鉄核の絶対強度算出を試みた。2015年10月から2021年5月までの68か月に観測されたデータを解析対象とした。このうち、主に超重核を対象とする検出モードである UH トリガーモードで運用されている期間に通過した観測点について、 Cutoff Rigidity の計算を行った。計算する観測点と入射方向の数については、計算精度と計算時間の兼ね合いから検討を行った結果、ひと月あたりおおよそ25,000地点、上半球を立体角で等分した193方向とした。こうして各観測地点から193方向に反陽子を射出して追跡する計算を行い、Cutoff Rigidity を求めた。次に、対応する期間の観測データについて、イベントごとに飛跡の再構成と電荷決定を行った。推定された電荷をもとに、鉄の原子核(原子番号26)を選別した。最後に、選別で残った鉄原子核それぞれについて、先に計算しておいた観測地点、入射方向と対応づけを行い、Cutoff Rigidity 毎に数を数え、検出効率を考慮に入れて絶対強度を算出し、積分型の Rigidity スペクトルを作成した。また、これを微分型に変換し、微分強度スペクトルを算出した。この結果を他の観測グループの結果と比較したところ、ほぼ矛盾のない結果が得られた。これで、この Cutoff Rigidity を用いて宇宙線原子核のエネルギースペクトルを算出する方法が有効であることが確認できた。
2: おおむね順調に進展している
地球磁場のcutoffを用いて宇宙線原子核の絶対強度を算出する手法をおおむね確立できた。検出効率計算の際の相互作用モデルが核破砕反応をうまく再現していない点や、45°を超える天頂角をもつイベントの取り扱いなど多少の問題は残っているが、あとはヘリウム核にこの手法を適用すれば、5年間にわたって宇宙線強度の時間変動が確認できると考えている。また、今回鉄核で成功したように、他の原子核成分についても、容易に10GeV/n以下の絶対強度を求めることができるので、高エネルギー側の観測値の Reference Point を抑える意味でも良い結果が得られると期待できる。
検出効率算出に用いた核反応シミュレーションの破砕核生成断面積が実験をうまく再現していないことがわかっており、現在モデルを改良中である。また、天頂角が45°を超えるようなイベントについては、未検討の系統誤差が存在しており、検討する必要がある。今後、これらの問題を解決した上で、ヘリウム原子核の強度変動を算出する予定である。最低でも月単位、あるいはそれよりも短い時間スケールの変動を観測できる可能性がある。また、その他の原子核についても順次絶対強度を算出していく予定である。
新型コロナウィルスの影響で、学会や研究打合せの出張予定がキャンセルとなり、大幅に使用計画が変更となった。次年度使用額については、データ解析作業の謝金や予備のデータストレージ機器の購入などにあてる予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (4件)
Physical Review Letters
巻: 128 ページ: -
10.1103/PhysRevLett.128.13110
巻: 126 ページ: -
10.1103/PhysRevLett.126.241101