研究課題/領域番号 |
20K03984
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
清水 肇 東北大学, 電子光理学研究センター, 名誉教授 (20178982)
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研究分担者 |
宮部 学 東北大学, 電子光理学研究センター, 助教 (10613672)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カイラル相転移前駆現象 / 電磁カロリメータBGOegg |
研究実績の概要 |
本年度は、銅標的を用いた実験の準備とテストをする予定であったが、SPring-8への出張が制限され、予定通りには進まなかった。しかし、実験の成功に向けた新たな検討を行い、前方にPWO電磁カロリメータ(PWO-F)を加えることにした。新たに行ったシミュレーションによれば、PWO-Fを追加すれば、バックグラウンドを更に1/8に減らすことができることがわかった。このPWO-Fは、過去に他の実験で使用したものを有効利用するものである。限られた出張回数ではあったが、PWO-F電磁カロリメータの架台を設計・製作し、設置することができた。 本研究は、大型電磁カロリメータBGOeggを用いて、η'メソンの2光子崩壊を測定し、原子核内部で崩壊するη'メソンの性質変化(カイラル相転移前駆現象)を捉えることを目標にしている。原子核内部の密度は宇宙開闢後間もない頃の宇宙の密度に匹敵し、そこではハドロン(クォークで構成された粒子)の質量が変化すると考えられているが、その検証に成功した実験は未だない。本研究では、原子核内部の強い相互作用を受けない光子を検出することによって、原子核内部のメソンの性質を調べるものである。現在までの解析結果によれば、2光子質量スペクトル中にη'メソンの質量から約60MeV低いところに「盛り上がり」が観測されている。これは、運動量が低いη'メソンに対してのみ現れており、運動量が高いη'メソンには見られない現象であることが分かった。現時点での統計的優位性は3.7σであり、十分ではないが、世界初の測定結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず過去に行われた実験で得られたデータの解析については、順調に進んでいる。炭素標的を用いた実験のデータ解析によって、原子核内部で2光子に崩壊するη'メソンの質量が約60MeV減少していることが分かった。これは、本解析において、運動量が1GeV/c以下のη'メソンと1GeV/c以上のη'メソンの質量を比較して得られた結果である。現時点での統計的優位性は3.7σであり、まだ十分ではない。使用した実験データは、全データの約半分であり、残りのデータの解析を進めている。 本研究では、銅標的による実験において、新たに超前方検出器PWO-Fを加えることにした。しかし、全国的な新型コロナウイルス感染拡大をうけ、実験場所であるSPring-8への出張が制限され、全体の実験準備が滞っている。このため、前方検出器の整備が遅れており、本年度内の銅標的を用いた新たな実験の実施に至っていない。現在までの進捗状況としては、PWO-Fを設置し、調整するところまでの準備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
炭素標的に対する実験データの残り半分の解析スピードをあげる。一方、新型コロナウイルス感染拡大の現状に鑑み、今後ますます出張制限などが行われる可能性が生じているので、できるだけ短い期間にデータ取得ができるようにするために、新たに行う実験のための銅標的の厚さを増やす。このことによるバックグラウンドの増大が懸念されるが、電磁カロリメータPWO-Fを前方に配置したシミュレーションによれば、バックグラウンドを抑えて、所期の目的を達成できそうである。ただし、銅標的の厚さを増すことは、実験室の放射線遮蔽の安全性の問題に抵触するので、然るべき対策を行った上で、SPring-8放射線安全管理室による安全性の検証と許可を得る必要がある。このための作業を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
全国的な新型コロナウイルス感染拡大をうけ、兵庫県SPring-8への出張が制限された為に生じた。主に一部旅費の未使用による。次年度では、新たに導入した前方電磁カロリメータPWO-Fの整備・調整に使用する予定である。
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