研究課題/領域番号 |
20K03987
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
谷口 秋洋 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (10273533)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ガスジェット型ISOL / レーザーイオン化法 |
研究実績の概要 |
本課題は、不安定核ビーム生成装置の一つであるガスジェット型オンライン同位体分離装置(ISOL)では前例のないレーザーイオン化法の実現可能性を検証するものである。 ガスジェット型ISOLでは、対象原子(核)はエアロゾル物質に吸着されイオン源まで輸送されており、単にその状態にレーザーを照射しても対象原子はイオン化され難いと予想される。 本課題では、原子(非放射性)がエアロゾル物質から再分離された状態へのレーザー照射によりイオン化が実現できるかを検証する。このため、ガスジェット輸送系模擬装置により対象原子(インジウム)がエアロゾル物質(PbI2)に吸着し輸送される状況を再現し、(1)対象原子の輸送効率の最適化、(2)対象原子の再分離に関する基礎実験、(他施設の)レーザー装置を利用した(3)再分離状態へのレーザー照射とイオン化の検証、(4)実用化に向けた技術的問題点の抽出等が計画されている。 当該年度においては、昨年度に続き(2)の研究が進められ、模擬装置内で、In(その化合物)やPbI2を、セラミックヒータ(熱電対内蔵型、使用温度~1000℃@熱電対)で加熱し、その上方10cmにある四重極質量分析器(QMS)でマススペクトルを測定することにより、Inやヨウ素(I)原子が分離・気化される条件などが確認された。 最終的には、マススペクトル中でIやIn原子の質量に相当するピークが観測され、さらに、最終的なレーザー照射実験用装置の設計等に関して、次の結果が得られた。 ①Inの気化には、表面温度で1000℃程度となるヒータが要る(*)、②アウトガス等のバックグラウンドの低減は重要、③被加熱試料から上方10cm程度にレーザー照射野を設定できる、④エアロゾル物質の凡その消費率が得られた。(*)用いたセラミックヒータでは表面温度が1000℃に到達せず、カンタル線ヒータに再換装し判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
四重極質量分析器(QMS)を用いて実施したIn原子の気化の確認に時間を要した。 最終的には、試料加熱用のセラミックヒーターの「表面」温度が高くできなかった事、及び、昇温に伴い放出されるアウトガスが、質量分析にとって想定を超えて大きなバックグラウンドとなり、In原子のマスピークが観測できなかった事がその原因であったと考えられる。 この確認のために、再度QMSの性能確認や質量マーカーによる再校正などの基礎的な作業、及び気化されたInのQMSへの導入効率の向上など多くの試行実験を行う必要が生じた。これに伴い、レーザー照射用装置に用いるヒーターの仕様が固まらず、装置の設計スケジュールにも遅れが生じている。また、この遅れのため、昨年度に新型コロナウイルス感染拡大防止による研究活動の抑制や実験室の雨漏りの修繕のために生じた遅れはそのまま積み残されている。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の方針は、より多数の対象原子が付着したエアロゾル物質の生成、その再分離とその状態へのレーザー照射と生成イオンの確認であり、大きな変更はせず、以下のように進める予定である。 【令和4年度】当該年度に得られた結果を基に、レーザー照射用装置の設計・製作を進める。この装置は、主に、真空容器、加熱用ヒーター、レーザー入射窓、イオンの収束・収集と計数系から成る。特に、表面で1000℃程度の温度が得られるヒーターは必要であり、その入手・性能確認の後、装置へ実装される。また、当該装置の要件として、別途模擬装置で作製された試料のヒーター上へのセット(と取出し)は、バックグラウンド低減のため、可能な限り真空が保持された状態で行なうことが望ましく、マニピュレーター機構を備えた方法を検討している。また、イオン収集・収束と計数系及び装置全体の仕様については、レーザー照射実験を実施する施設の担当者と検討を進める。 【令和4年度~令和5年度】レーザー照射装置構築の後、他施設において、所属機関で予め作製した試料をチェンバー内で加熱し、試料上方にレーザーを照射しながら生成イオンを観測することで、ガスジェット型ISOLへのレーザーイオン化法の可能性を検証する。また、実用化に向けた技術的問題点も抽出する。 【研究計画の変更・課題】計画では、対象原子が付着したエアロゾル物質の生成条件の最適化が含まれているが、この項目については優先度を下げ、精密な最適化が必要とされるまでは、模擬装置構築時に得られた過去の生成条件を用いる。本課題を遂行するにあたり、試料加熱用ヒーターの仕様が重要であることが判明したが、昨今の世界の情勢により、その仕様を満たすヒーターの入手には時間を要する可能性がある。その場合、安定性等に問題はあるが、従前の手製カンタル線ヒーターの流用などを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主な理由は、本研究を遂行する上で重要な加熱用ヒーターの仕様を固めるための情報を得るのに時間を要したため、新規ヒーターの経費の見通しが立てられなかった事、またこれに伴って、装置へ試料をセットするための機構(方法)の設計方針が立たなかった事により、予算の執行を控えたことによる。 現在においてヒーターの仕様がほぼ固まったため、まずはヒータ―入手に向けて検討を始め、併せて、進捗状況を見極めて、他の必要な部材などの購入も進める予定である。
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