本研究は世界で初めてトップクォーク単一生成を用いた時間反転対称性の破れを探索するものであった。他の基本対称性と比べると、時間反転対称性とその破れは実験的にも理論的にも研究は少ない。そのため、破れの探索の意義があるかどうかを文献調査することで検討した。標準模型の枠組みでCP対称性の破れを生み出しているカビボ・小林・益川行列は湯川結合に起因しており、トップクォークはほぼ1のとても大きな湯川結合を持つ。トップクォークはハドロンにはならないので、中間子混合は起きず、崩壊の際の時間反転対称性の破れのみを探索できる。時間反転対称性の破れの探索を妨害する一つの現象が、偽のゼロでない時間反転奇(T-odd)の相関を生み出す終状態相互作用(FSI)である。トップクォークがボトムクォークとWボソンに崩壊し、Wボソンが荷電レプトンとニュートリノに崩壊する過程は強い相互作用のFSIはなく、電磁相互作用のFSIのみである。陽子陽子衝突であるので、全体のハドロン化の際の強い相互作用のFSIはあるであろうが、小さいと期待できる。理論計算は存在しないため、FSIはないと仮定して、ATLAS実験で取得したRun 2実験のデータとそれに対応するモンテカルロ・シミュレーションを解析するのが良いと考えた。また、この研究で用いたいt-チャンネルでのトップクォークの単一生成の解析がトップクォークの偏極度を測定するために行われており、相乗りして本研究を行えば良いことがわかった。 しかし、九州大学を退職したため、研究は途絶することになった。
|