本研究では、太陽系の動径方向へ定常的に物質を輸送する主要なプロセスの一つであるβメテオロイドの観測を実現するために独自の方式の膜面型ダストセンサシステムを開発した。本ダストセンサシステムの検出原理は、宇宙塵がポリイミド膜に衝突することで発生する弾性波を膜面上に配置した圧電素子群により電気信号に変換し、衛星搭載エレキによって信号処理することで、粒子の衝突として検知するものである。 開発したセンサシステムは、大阪大学の静電加速器によって加速した微粒子を実際にセンサに衝突させ計測することで、最適化を行った。この実験により、センサ感度に影響する因子を調整し高感度化することでβメテオロイドにおいて想定される運動量を検出できる感度を達成した。 膜面型ダストセンサシステムを搭載した超小型衛星ASTERISCが2021年にJAXAイプシロンロケットにより軌道投入された。初期運用において膜面型ダストセンサを展開し、軌道上粒子の観測に成功している。その後、現在に至るまで定常運用を実施している。定常運用では主にβメテオロイドを観測するために、スピン安定姿勢制御によってβメテオロイドの飛来方向である太陽方向にダストセンサを指向させた状態で観測を実施した。 令和5年度は、ASTERISCの運用と並行して、解析プログラムを構築しダウンリンクした波形データの解析を行った。解析プログラムにおいては、まず、観測波形をフーリエ変換により周波数成分に分割した後に、圧電素子とポリイミド膜の組み合わせで決まる共振周波数200kHz付近のみを抽出し、逆フーリエ変換により再び波形に戻すことで、センサ以外から発生するノイズの影響を低減する。次に、各圧電素子の信号到達時刻を用いて逆算した衝突位置の妥当性から各波形データの真偽判定を行うアルゴリズムを開発した。
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