研究課題/領域番号 |
20K03997
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
森口 哲朗 筑波大学, 数理物質系, 助教 (10635890)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 不安定核 / 中性子スキン / 中性子星 / 反応断面積 / 固体水素標的 |
研究実績の概要 |
本研究は、重い中性子過剰核の中性子スキン厚(原子核表面に現れる中性子の層)を導出し、中性子星の構造を解明することを目的とする。中性子星の大きさと中性子スキンの厚さには約10の19乗のスケールの違いはあるが、中性子物質の圧力という共通のパラメータを持つ。現在、この圧力パラメータには大きな不定性があるため、本研究でより精度良く決める。中性子スキンはミクロな中性子物質とみなすことができ、中性子星の一部として地球上で観測できる数少ない現象である。重い中性子過剰核の場合、スキン領域を構成する中性子の数は多く、より中性子物質に近い状況が再現できると期待されている。 スキン厚は反応断面積(原子核反応の確率)を測定することで導出できる。重い原子核の場合、原子番号が大きくなるため、スキン厚の導出に直接寄与しないクーロン力による分解反応の影響が大きくなることが課題とされてきた。そこで、本研究ではクーロン分解の影響が最も少ないとされる水素を反応標的に用いることで、この課題を克服する。特に、本研究では申請者が開発し運用してきた固体水素標的を使用する。この固体水素標的は反応断面積測定に特化したもので、最大直径50×長さ100 mm^3の固体水素を作成することができる。実験は理化学研究所のRIビームファクトリー(RIBF)にて行う。RIBFでは重い中性子過剰核の生成を可能とする。本研究ではスズの原子核に注目し、特に、134-137Sn(陽子数50、中性子数84-87)の重い中性子過剰核のスキン厚の導出に挑戦する。 本年度は、実験準備として、RIBFでの反応断面積測定に向け、固体水素標的の改良に関する検討を行った。この改良は固体水素標的を使う測定と使わない測定の切り替え時間を短縮させるものである。改良の後、本実験を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験前の準備として、固体水素標的の改良が必要となる。これは、上記の通り、固体水素標的を使う測定と使わない測定の切り替え時間を短縮させるものである。反応断面積測定ではバックグラウンドとなる反応標的以外の物質(検出器や真空窓など)での反応の影響を差し引くため、反応標的を使わない測定を行う必要がある。現状、反応標的を使わない測定では、一旦、固体水素を溶かして回収する必要があった。この改良では、固体水素を回収することなく、ダミーセルを設置することで固体水素標的を使う測定と使わない測定の切り替え時間を大幅に短縮することを検討している。本年度、おおよその設計は済んだので、来年度、製作に入る。また、本年度、RIBFでの実験課題採択委員会に本研究のスズ同位体の反応断面積測定の課題を提出し、無事、承認を得た。来年度以降、実験が可能となる。以上の点より、本研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
固体水素の改良に関する架台やセル等を新たに制作する。制作後、改良後の固体水素標的の性能を知るために、イオンビームを用いたシステムチェックを行う。この確認は、放射線医学総合研究所のシンクロトロン加速器HIMACを用いて行う。実験によって、修正が必要な箇所があれば適宜修正や再度改良を行う。来年度中には改良を終了させ、来年度の後半から再来年度の前半にはRIBFにてスズ同位体の反応断面積測定を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
固体水素の改良の検討を本年度に行ったため、その制作とテスト実験に必要な物品の購入が次年度となった。放射線医学総合研究所でのテスト実験と理研RIBFでの本実験で、できる限り共通で使えるように検出器等の購入を計画している。
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