研究課題/領域番号 |
20K04000
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
柴田 利明 日本大学, 理工学部, 研究員 (80251601)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ドレル・ヤン反応 / 反クォーク / 海クォーク / フレーバー非対称性 / パートン / 陽子 / 中性子 / グルーオン |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、陽子や中性子(総称して核子と呼ぶ)の中の反クォークのフレーバー非対称性の測定である。核子の中では、グルーオンがクォークと反クォークに乖離し、またグルーオンに戻る、ということが随時起こっていると考えられる。このようにして生成されるクォーク・反クォーク対は、海クォークと呼ばれている。量子色力学によれば、グルーオンからクォーク・反クォーク対への乖離は、クォークの色電荷によって決まり、フレーバーに依らない。したがって、uクォークと反uクォークの対は、dクォークと反dクォークの対と同じ数だけ生成されると期待される。陽子の質量と比べると、uクォークとdクォークの質量はいずれもたいへん小さいので、終状態の位相空間を考慮にいれても同じ数だけ生成されると期待される。しかし、1991年にNMCグループの深非弾性散乱の実験により、フレーバー非対称性があることが報告された。陽子の中では反dクォークの方が反uクォークよりも多い。本研究では、このフレーバー非対称性をドレル・ヤン反応を用いて調べている。ドレル・ヤン反応では常に反クォークが反応に関わっているので、反クォークの研究に適している。 アメリカ・フェルミ国立研の120 GeV 陽子ビームを用いた。本研究を行っている国際共同研究グループSeaQuestは、2021年にNature誌に論文を発表したが(The asymmetry of antimatter in the proton, Nature 590, 561-565 (2021))、2022年には実験の装置や理論的検討の詳細を記述した論文をまとめた(投稿済み、査読中)。これらは陽子標的と重陽子標的のドレル・ヤン反応の微分断面積の比から導出したものであったが、2022年には更にドレル・ヤン反応の微分断面積の絶対値の測定の解析も進めた。ドレル・ヤン反応の角度分布の検討も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況としては、まず実験のデータ取得は計画通り完了した。現在、実験データの解析を進めている。研究は順調に進んでいる。本研究は、国際共同研究グループSeaQuestを形成して行っている。2021年にNature誌に論文を発表した後、2022年には更に詳細を記述した論文をまとめた(投稿済み、査読中)。優先順位をつけて順次、学術論文を更に発表するために実験データの解析を行っている。COVID-19の影響で、部品が調達できず物品を製造できない会社があって購入を延期したり、国際会議での対面での成果発表を延期したりするということもあったが、研究計画の順番を入れ替えるなどして対応している。
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今後の研究の推進方策 |
取得した実験データについて、データ解析をして順次、学術論文として発表する。そのために、実験装置の性能の正確な理解とソフトウェアの面での解析手法の開発を更に進める。今後の推進方法としては、優先順位として、陽子および重陽子標的のドレル・ヤン反応の微分断面積の絶対値の測定結果をまず論文にまとめる。そのための準備グループをすでに形成してあるので、定期的な会議を続けて論文を作成する。この絶対値の導出は、以前の陽子標的と重陽子標的の比の導出よりは検討すべき点が多く、詳細なデータ解析が求められるので、十分な対策を立てて行う。次に、ドレル・ヤン反応の角度分布の検討をする。更に、原子核標的のドレル・ヤン反応の実験データも得られているので、原子核と陽子の比較をして、原子核としての特徴を記述した論文を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験データの解析は、測定器の性能の検証とソフトウェアの開発が主な要素であるが、COVID-19の影響で、部品を調達できず物品の製作ができない会社が複数あった。研究者間の研究連絡会議も対面での会議を延期し、国際研究集会での発表も延期したため、次年度使用額が生じた。次年度は、研究の成果発表を対面で行うので旅費として使用する。今年度までに購入できなかった物品の購入も行う。
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