不安定原子核は世界の原子核研究の主流先端テーマである。我々は世界に先駆けて不安定原子核の基礎データである大きさ・形状を決定する電子散乱実験手法を確立し、最初の物理結果を発表した。この手法はどの原子核にも適用できるが105~106個/s程度の生成量の少ないデータ取得に向けては、バックグラウンド(以下BG)除去能力を高めることと低ルミノシティーの測定精度を強化する必要がある。再三にわたるコロナ禍を原因とする研究の進捗遅延が生じ、本研究の開発に大きな足かせとなった。 それでも最終の2022年度にはMCPのストリップ読み出しによる位置分解能の向上(現状から3倍の改善)のためのプロトタイプアセンブリーを完成することが出来た。現在、実験で使用されているイオン分析器への組み込みを検討しているが、共同実験の会議では、検出部以外も含めたより大がかりなアップグレードが必要との結論が出て、現在その新たなイオン分析器の設計に必要なイオン軌道計算を始めた段階である。 一方、位置分解能が悪いながらも現在のセットアップでもイオン価数分布の時間発展を追うことが可能であるので、平行してXeイオンを使った測定を断行した。その結果、アップグレード前の不完全なセットアップでは測定に時間を要するものの+1価から+17価までのイオンをきれいに分離することが可能であることが判明した。本研究課題で作成されたMCPアセンブリーを導入すれば、短時間かつ+17価より多価のイオン領域までのイオン分析が可能となり、電子散乱実験の生命線であるルミノシティー決定に王手をかけることが出来る。
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