研究課題/領域番号 |
20K04002
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
清水 雄輝 神奈川大学, 工学部, 准教授 (60434320)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 反粒子 / 暗黒物質 / 深層学習 |
研究実績の概要 |
南極周回気球を用いた宇宙線反粒子測定計画GAPSによる、これまで未検出の反重粒子の探索を目的として、測定器の観測性能の極大化のための計算機シミュレーションによるデータ解析手法の研究を進めた。GAPSの主な測定対象である反重陽子の検出において重要となる、フラックスにして1000倍以上の存在量となる反陽子のバックグラウンドイベントの除去のため、GEANT4を用いたモンテカルロシミュレーションによって粒子識別手法の開発を行った。粒子識別手法として、近年パターン認識のアルゴリズムとして著しい成果を上げている機械学習手法の一種である畳み込みニューラルネットワークを用いて、GAPSの主要検出器であるリチウムドリフト型シリコン半導体検出器(Si(Li))アレイのデータからの反陽子・反重陽子の識別を試みた。Si(Li)アレイは、検出器素子を3次元的に配置することで入射反粒子およびその対消滅によって生じる多数の二次粒子(パイ粒子、陽子など)の飛跡を捉えることができる。この粒子飛跡のシミュレーションデータを用いて、3次元畳み込みニューラルネットワークの学習をGPGPU計算機による並列計算によって行い、反粒子種識別の性能を評価した。最も簡単な試行条件として、測定器上方からの垂直入射の場合の識別性能を評価し、5桁程度の識別性能を得た。また、学習における各種パラメータの調整を行って最適化を図った。現在、Si(Li)アレイに加えてその周囲に配置されているTOFプラスチックシンチレーションカンタのデータを用いた識別、さらに深層での学習モデルを構築するアルゴリズムであるResidual Networkの導入を試みるとともに、より現実的な条件として一様等方入射での反粒子種識別性能の評価を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多コア計算機を用いたGEANT4でのシミュレーションデータ生成、GPGPU計算機を用いた三次元畳み込みニューラルネットワークによるSi(Li)アレイデータの解析手法をおおよそ確立し、本計画で検討していた研究手法について目途を立てることができた。粒子識別手法は開発途中ではあるものの、垂直入射の条件においては反陽子・反重陽子識別性能において所期の性能が得られている。また、現在進めているTOFシンチレーションカウンタとSi(Li)アレイのデータの併用による学習モデル構築、Residual Networkの導入によって、高い検出効率と識別精度を両立することが可能な結果が得られつつあり、より現実的な条件である一様等方入射における識別においても良好な結果が得られそうな見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
これまで行ってきた畳み込みニューラルネットワークによる反陽子・反重陽子識別手法の研究をさらに進め、一様等方入射の粒子に対する識別性能向上を図る。Si(Li)アレイおよびTOFシンチレーションカウンタのデータの併用による学習モデルを確立し、モデル構造および学習パラメータの最適化を行う。また、この粒子識別手法を反ヘリウムとそのバックグラウンドとの識別にも応用し、反ヘリウム検出性能の評価を進める。 また、現在アメリカで組み立て中の地上試験モデルによる実データの取得が2021年度前半に行われる予定である。このデータを計算機シミュレーションに取り込み、学習および評価に用いるシミュレーションデータの再現制度の向上を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画段階では2020年度中に研究打ち合わせ、地上試験モデルの組み立て等のためにアメリカへ渡航予定であったが、コロナウイルスの感染防止のため実施ができなかった。繰越分については、社会情勢も鑑みつつ、2021年度に同様の目的でのアメリカへの旅費として使用する予定である。
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