研究課題
南極周回気球による宇宙線反粒子測定計画GAPSの測定器開発のため、計算機シミュレーションによる反重陽子識別方法の研究および地上試験用冷却システムの準備を行った。前年度に確認をした、深層学習による反粒子種識別手法の開発をさらに進めた。深層学習の一種である、GAPSの主検出器であるリチウムドリフト型シリコン半導体検出器(Si(Li))アレイの持つ3次元構造の取り込みが可能な3次元畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて、GEANT4によって粒子を一様等方に発生させたデータによるパターン学習を試みた。一方で、Si(Li)アレイを取り囲む、長尺のプラスチックシンチレータからなるTime-of-Flight(TOF)カウンタについては、アレイ構造ではないためCNNへのデータ取り込みが困難であった。そこで、Si(Li)アレイはCNN、TOFカウンタについては全結合ニューラルネットワーク(FCNN)に入力して並列化し、最終的に両ネットワークを全結合する学習モデルを構築した。また、残差ネットワークの導入により、ネットワークの多層化を図った。この学習モデルにより、一様等方に粒子を発生させた場合でも、GAPSの主測定対象である反重陽子に対する反陽子バックグラウンドの高い除去性能を確認することができた。今後は、学習データ量を増やすこと、学習モデルの最適化による識別性能の向上を目指す。また、GAPSでの反粒子種識別に用いる、エキゾチック原子の崩壊過程で生じる特性X線の測定には、熱雑音を抑えるためにSi(Li)検出器を-45℃程度まで冷却することが必要となる。フライト実機の地上試験時には熱放射による冷却ができないため、ラジエータを冷却するための地上用システムを製作した。今後はフライト実機を製造し、測定器の機能・性能試験を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
GAPSの主観測対象である反重陽子の測定では、フラックスの多い反陽子の誤認によるバックグラウンドが最も問題となる。本研究では、測定器での取得データから反重陽子と反陽子を識別するための解析手法として、深層学習によるパターン認識を利用した手法の開発を進めている。前年度に行った三次元CNNを用いた学習モデルでは、エネルギーや入射方向の範囲を絞ったデータについては高い識別性能が確認できたが、範囲を広げてパターン学習を行うと性能が落ちることが確認されていた。今年度は、新しい学習モデルとして、TOFカウンタのデータをFCNNの入力として取り込み、CNNと結合するニューラルネットワークを構築した。Si(Li)アレイで測定する粒子飛跡に、TOFカウンタを構成するプラスチックシンチレータ内での損失エネルギーや飛行時間を組み合わせてパターン学習を行うことができる。この手法を用いることで、前年度からの課題となっていた、反粒子のエネルギーおよび入射方向の範囲を広げた際の識別性能の低下を大きく抑えることができた。
今年度開発を行った三次元CNNとFCNNを組み合わせた学習モデルについて、ニューラルネットワーク構造や学習時のハイパーパラメータの最適化を行い、反粒子種識別性能の向上を図る。また、深層学習では学習用データを増やすことで識別性能が向上することが知られている。データ量を増やしつつ、パターン学習の高速化・効率化を進める。また、次年度にはフライト実機の製造および試験が行われる予定である。地上試験によって測定器を構成するSi(Li)検出器およびプラスチックシンチレータの較正データを取得する。この較正データをモンテカルロシミュレーションに取り込むことで、パターン学習用データの再現性の向上を図る。
コロナウイルス感染症による移動の制限のため、出張が困難であったため。次年度に情勢が改善されれば、国内外での出張旅費として使用する予定である。
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Astroparticle Physics
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