研究課題
本研究では、核共鳴蛍光散乱を用いて安定な鉛原子核の双極子準位を励起し、脱励起の際に放出される散乱ガンマ線の測定を行う。散乱ガンマ線の強度から、励起エネルギー5~8MeV領域の共鳴準位への電気双極子(E1)遷移の強度を明らかにし、中性子過剰な原子核の励起エネルギー10MeV以下に現れる中性子スキンとの関連を調べる。鉛206の励起モードを明らかにするため、分子科学研究所UVSOR施設において、偏光ガンマ線を用いた核共鳴蛍光散乱実験を行った。エネルギー746MeVの加速電子と波長800nmのレーザー光を82度の角度で衝突させ、最大エネルギー7.54MeVのレーザーコンプトン散乱ガンマ線を生成した。直径3㎜、長さ18㎝の鉛コリメーターを用いて、レーザーコンプトン散乱ガンマ線のエネルギーを準単色化し、高濃縮の鉛206標的に照射した。レーザーコンプトンガンマ線の強度は、大容量のLaBr3シンチレーターを用いて測定した。また、鉛206標的から放出された核共鳴蛍光散乱ガンマ線を、散乱角90度に設置した4台の高純度ゲルマニウム検出器を用いて測定した。これらの高純度ゲルマニウム検出器を入射ガンマ線の偏光面に対して垂直方向と水平方向にそれぞれ2台づつ設置することにより、散乱ガンマ線遷移の多重極度を決定するためのデータを取得した。さらに、鉛204の核共鳴蛍光散乱実験から得られたデータの解析から、励起エネルギー3.6~8.4MeV領域において、136本の基底状態への遷移ガンマ線を観測し、角度相関関数の比から多重極度を決定するとともに、散乱ガンマ線強度から、積分断面積、ガンマ線崩壊幅、及び換算E1遷移確率を評価した。
2: おおむね順調に進展している
分子科学研究所UVSOR施設において、レーザーコンプトンガンマ線を用いた鉛206の核共鳴散乱実験を行うとともに、鉛204の核共鳴散乱実験データの解析により、双極子励起準位に関する情報を取得した。
得られた実験データの解析を進めるとともに、E1遷移強度の微視的なメカニズムを明らかにするため、乱雑位相模型などを用いた理論分析を行う。
当初計画を効率的に進めた結果、運搬費や旅費を節約でき、次年度使用額が生じた。今年度、データ解析や成果発表などに係る費用として使用する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Applied Sciences
巻: 11 ページ: 11866
10.3390/app112411866
Applied sciences
巻: 11 ページ: 3415
10.3390/app11083415