研究課題/領域番号 |
20K04008
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
徂徠 和夫 北海道大学, 理学研究院, 教授 (80344464)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 銀河 / 星間ガス / 星生成 |
研究実績の概要 |
本研究は,銀河内部において恒星の材料となる星間ガスの質量を空間分解した上で正確に測定し,星生成率,ガス質量,星質量の間の関係を定量化することを目的とする.研究は,1)近傍銀河内部の領域ごとの高精度な分子ガス質量の導出,2)近傍銀河内部の領域ごとの原子ガス質量及び暗黒ガスの質量の導出,3)星質量-星生成率-ガス質量の関係の定量化と大局的な星生成過程の解明,という3つの観点から進める計画で,初年度は1)に着手し,2年目は3)にも着手した. 基本となる一酸化炭素分子の複数のスペクトル線の撮像データは,既に私たちが国立天文台野辺山宇宙電波観測所45 m電波望遠鏡で取得した147銀河のデータと,同望遠鏡の共同利用観測で追加観測した12天体である.これらの観測で取得した一酸化炭素分子の回転量子数が1から0に遷移するスペクトル線(12C16Oと同位体の13C16O)に加え,遷移の異なるスペクトル線(12C16Oの回転量子数が2から1及び3から2へ遷移するもの)のデータは,海外の望遠鏡で取得されアーカイブされているものを利用した.また,より高い空間分解能を得るため,アタカマミリ波サブミリ波干渉計のアーカイブデータも利用した. これらの複数輝線の励起解析から物理量の最適な値を推定する方法を検討し,その適用を試みた。その結果,棒渦巻銀河の棒状構造に沿って分子ガスの物理状態に違いが生じている可能性を見出した. また,初年度末に兵庫県立大学西はりま天文台なゆた望遠鏡の共同利用観測で取得したデータの解析を行った.観測条件等のために,2銀河3領域のスペクトル線しか得られなかったが,金属量を高精度に求められることが明らかになった. 3)については,特に銀河の星生成効率について研究を進めた.13CO輝線放射を伴うかどうかで分子ガスの状態が異なり,結果的に導出される星生成効率が見かけ上異なり得ることを突き止めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定では,前述の観点のうち初年度は1)及び2)に着手する予定であったが,新型コロナウイルス感染症対策の影響を受け,全体的に進捗が遅れており,2年目も2)には着手できなかった.一方で,後述のように3)に関連して予想しなかった重要な発見があり,当該分野の発展への寄与としては大きなものがあった. 複数のスペクトル線の解析については,物理量の推定についてより確度の高い方法を検討し,解析結果へ適用する目処が立った.また,アタカマミリ波サブミリ波干渉計の高空間分解能・高感度のアーカイブデータを使った解析にも着手し,棒渦巻銀河の棒状構造に沿って分子ガスの運動と関連して物理状態が変化している可能性を見出すことができた.巨大分子雲スケールで得られたこの結果は,分子ガスの一相モデルを回避する上で重要である. 金属量の測定については現状で即利用可能なデータの取得には至らなかったが,解析の結果は原理的にはこの方法で精度よく推定ができることを示しており,より大型の望遠鏡を用いれば実現できる見込みが得られた. 3)に関しては,12COと13COのデータを比較することで,星生成効率に関して重要な知見を得られた.13COのデータの質が高い銀河について,13CO輝線が検出された位置・速度の12CO輝線強度と,13CO輝線が検出されていないものに分けてデータを解析したところ,前者について求めた星生成効率は銀河内部の領域に依存せずほぼ一定値となること,これまで星生成効率の違いと思われていた差は,前者と後者の割合の違いであることが明らかになった.前者はいわゆる分子雲と呼ばれる状態にある分子ガス,後者は分子雲を取り囲むように存在する希薄な分子ガスと考えられ,このことは,星生成効率の違いは分子ガスが重力的に束縛されているかどうかで決まることを示している.これを受け,次項で述べるように研究推進方策に修正を加える.
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今後の研究の推進方策 |
3年目は1)の複数スペクトル線の励起解析の完了を目指すとともに,3)の星質量-星生成率-ガス質量の関係を13CO輝線の検出の有無を判定に用いて分子ガスの相に分けて研究する予定である.また,2)の原子ガス質量を求める目処が立ったため,この研究にも着手する. 2)の原子ガスについては,分子ガスに比べて分布領域が広いためにスタッキング領域の決め方を検討する必要があるものの,基本的には分子ガスと同様の方法で解析ができるものと期待される.一方で,暗黒ガスについては,現状で手に入り得るデータを用いた解析はかなり困難と予想されることが判明したため,今後どのような観測が可能かを検討するに留まる可能性が高くなった. 3)については,既にガスから恒星が生成される過程が銀河の内側から先に進んでいる兆候を見出しており,分子ガス量のみから得られるこの結果をまずまとめ,その後,原子ガス量も加えた研究を進める予定である.また,棒渦巻銀河と棒状構造のない渦巻銀河の比較から,棒状構造に起因するような分子ガスの大局的な運動が,分子ガスの性質や相,さらには星生成に及ぼす影響について調べる予定である. 金属量の測定に関しては,大型の望遠鏡を用いた観測が必要となることが判明したため,具体的な検討を行い,観測提案を行う.また,アーカイブされた可視光撮像データから金属量分布を求め,今後予定しているアタカマミリ波サブミリ波干渉計を用いた分子ガス観測の対象を検討する. 初年度に試みた赤外線衛星WISEのバンド3で取得されたデータから分子ガスの質量を推定する手法を確立する研究についても,13CO輝線の検出の有無を判定基準に用いた分子ガスの相分離も踏まえて,進める予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対策のために研究代表者及び研究協力者の研究室への通勤・登校が制限されたために,初年度に引き続き研究の進捗が遅れ気味となった.このため,研究の一部については学会・研究会並びに査読論文で研究発表できるレベルまで研究を進めることができず,これらに関係して計上していた旅費及び論文投稿料を当該年度で使用しなかった. 3年目は前年度までに未完成であった研究を進め,それらの発表が見込まれるため,該当額をそのまま繰り越し,同じ目的(旅費並びに論文投稿料)として使用する計画である.
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