研究課題
2019年に実施した、太陽観測ロケット実験CLASP2の取得データを用いた研究を主に遂行した。本研究課題のテーマの1つは、CLASP2の偏光分光データから、太陽彩層・コロナ加熱のメカニズム解明につながる彩層コロナ中のエネルギー輸送・散逸現象を理解するためのものである。この目的達成に向けて、まずはCLASP2データの較正とそれに基づく磁場強度の導出を試みた。CLASP2との同時観測を実施した衛星IRIS、SDO、ひのでの観測データを用いて画像間・時系列間の位置合わせを行った上で、時系列データを全積分(2.5分間)することで偏光精度を高め、ストークスIとVによるフィッティングから磁場強度を導出した。この際、電離マグネシウム線は波長中心付近とウィングで太陽大気中の形成高度が異なることを踏まえ、中性マンガン線も含めた異なる3つの高度での磁場計測に成功した。また、ひのでの光球磁場も加えた4高度における磁場の高度分布を世界で初めて示すことができた。この結果は Science Advances に掲載され、国立天文台よりウェブリリースを行った。続いて、磁場強度の時間変化を調べるため、積分時間を減らし、フィッティング精度が科学研究を遂行するだけの信頼に足るかを検証した。その結果、15秒間の積分で磁場強度の導出はできるものの、磁場強度に応じたフィッティング誤差が生じることもわかり、200ガウス以下の彩層磁場においては、2.5分間の時間変化を議論することは難しいと結論を得るに至った。また、CLASP2の再飛翔計画も合わせて進め、日本のJAXA、アメリカのNASAそれぞれで採択され、2021年度に実施することが決まった。
2: おおむね順調に進展している
CLASP2の初期成果に関する論文が出版され、観測ロケット実験として成功を収めたといえる。また、これに続く研究成果も申請者自身を含めて翌年度、翌々年度に複数出版される予定であり、太陽研究分野へCLASP2がもたらすインパクトは大きい。また、CLASP2再飛翔計画も採択され、この研究手法によるさらなる研究の期待が高いといえる。本年度は COVID-19 の影響下で可能な限りの活動を実施したが、海外研究機関での滞在研究による密な議論の実施ができなかった。CLASP2再飛翔計画の準備なども日程調整を行うことで対応しているが、当初の予定とは大きく異なりつつある。
CLASP2の解析を進め、磁場の時系列変化に関する論文をまとめる。また、CLASP2再飛翔計画を遠隔会議や渡米により行い、2021年9月の打ち上げに向けた準備を進める。本研究課題のもう1つのテーマである機械学習もCLASP2再飛翔の進捗が得られ次第、国内共同研究者と議論を進め、コロナ加熱研究への応用に向けた活動を行う。
COVID-19 による出張差し控えに伴う旅費の一部が繰り越されている。また、機械学習用の計算機購入も、COVID-19 による入荷遅れや雇用先研究機関の自宅勤務要請も重なり、効率的な研究推進のために年度内の購入を見送り、次年度に回すこととした。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Science Advances
巻: 7 ページ: eabe8406 (7pp)
10.1126/sciadv.abe8406
Proceedings of the SPIE
巻: 11444 ページ: 114446W (12pp)
10.1117/12.2562273
https://hinode.nao.ac.jp/news/results/clasp2-publication-202102/