研究実績の概要 |
宇宙の初代星がどのような典型的な質量を持ち、どのような超新星爆発を起こして元素合成をしたかを解明することは、現在の天文学の最も重要な課題の一つである。本研究では、重力波で観測されている質量の大きいブラックホールと高度に明るく輝く新しいタイプの超新星とが、初代星の正体とその爆発の手がかりを提供しているというアイデアに基づき、これらのブラックホールや特異な超新星の親星の性質を明らかにし、初代星の質量と進化を解明することを目的とした。 2023年度は、ブラックホールの形成に伴うジェット状の超新星爆発のシミュレーションの継続研究を行い、親星として初期質量が太陽の20-25倍の星を採用した。球対称の爆発モデルと比較した元素合成の特徴として、Si/O, Ca/O 比が小さくなることを見出した。 研究期間全体としては、電子対生成によって脈動を起こしつつ重力崩壊する80-140太陽質量(Msun)の星の進化と爆発の計算により下記のような点を明らかにした。(1) この質量範囲の星は脈動によって水素を含まないガスを爆発直前まで放出し続け、星の直近に存在する星周物質を形成する。(2) ブラックホールの上限質量は約50 Msun となる。(3) 重力波観測からは、ブラックボールの質量は50 Msun 以下と推定され、本研究の結果と矛盾しない。一例、理論値の上限より大きいものが報告されている。(4) 原子核反応の不定性、特に炭素とヘリウムの融合で酸素をつくる反応の不定性は、ブラックホールの上限質量に重要な影響を与える。(5) ブラックホールの形成に伴うジェット状の超新星爆発では、元素組成比、特にSi/O, Ca/O 比が球対称爆発より小さい。Si/O, Ca/O 比の観測値は、爆発の親星の質量の判定に使われているので、この比の理論値を、親星の質量の関数として求めることは重要である。
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