EHTにより楕円銀河M87に続いて天の川銀河中心にある巨大ブラックホールの影の撮影画像が発表されたことに触発され、われわれは、(1)ブラックホールジェットの駆動機構の解明、(2)ブラックホール降着流の構造変動、(3)高光度降着流ダイナミクスの解明に取り組んでいる。 (1)前年度に引き続き一般相対論的磁気流体(シミュレーション・モデル)データを用い、一般相対論的偏光輻射輸送シミュレーション計算を実行してブラックホール近傍領域の電波放射マップおよび直線・円偏波画像を作成している。これまでの熱的電子の仮定をはずし、今年度新しく非熱的電子に着目して同様の計算を進めた。非熱的電子は磁場と垂直方向の偏光成分を強く吸収する。その結果、直線偏光の偏向角は光学的に厚い部分と薄い部分で90度シフトすること、そのようなシフトはカウンタージェットと光子リングの画像に如実に表れることを発見した。これは、非熱的電子の存在および磁場の向きを証明するうえで本質であり重要な知見である(論文にまとめられ間もなく投稿予定)。 (2) アウトフローを生み出す母体となる「温かいコロナ」のモデルの構築を行い、シンプルなモデルで、スペクトルの特徴やプラズマ温度を再現することに成功した。結果を論文にまとめてPASJ誌に投稿し、レフェリーとのやり取りを経て年度末にアクセプトされた。並行して幅広い輝線領域の構造に関する議論を行った。 (3)超臨界降着流が生み出すアウトフローの輻射流体シミュレーションを継続し、運動論的光度のふるまいの変化(エディントン光度の数倍を境に質量降着率の1.7乗から2.7乗に変化)の原因を突き止めた。すなわち、アウトフローは高密度でやや低速の内側の成分と低密度で高速の外側の成分にからなっており、その境界が質量降着率の上昇とともに次第に狭まることで説明できることが分かった。以上の内容を論文にまとめた。
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