研究課題/領域番号 |
20K04028
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中村 正人 日本大学, 理工学部, 教授 (00256801)
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研究分担者 |
左近 樹 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (70451820)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 星間分子 / イオン分子衝突 / 化学反応 / 星間物質 / 多環芳香族炭化水素分子 / 星間ダスト / 新星 |
研究実績の概要 |
宇宙空間には炭素を含む分子が存在し、これらが荷電粒子との相互作用によって受け、これが星間空間における分子進化に影響を及ぼしていると考えられる。これらの分子の変性プロセスについて理論と実験の側面から研究を行った。星間空間で最も多く観測される炭素含有分子は一酸化炭素(CO)である。CO分子と荷電粒子の衝突おいてエネルギー移動過程を調べ、振動回転励起がどのように起こるかをシミュレーションを使って調べた。この結果は日本物理学会誌の英文専門誌Journal of Physical Society of Japan に出版された。さらにこれと同じ手法をより分子量の大きい炭素含有分子へと拡張中である。 赤外線天文学の進歩により星間空間には分子のみならず塵が普遍的に存在することが示唆されるようになったが、星間有機物の物質同定や形成過程の理解は依然として不十分である。本研究の実験的研究として星間有機物の性質を調べるためにマイクロ波電源プラズマ生成装置を用いた有機物の塵の合成実験を行なった。その結果、古典新星周囲の有機物放射を再現する実験室有機物である急冷窒素含有炭素質物質(Quenched Nitrogen-included Carbonaceous Composite: QNCC)を合成し、新星が作る有機物の塵にはアミンの形態で窒素が含有されることを見出し、この結果は世界的に有名である天体物理学の専門誌Astrophysical Journalに発表された。また、2014年度より実施している国際宇宙ステーションを利用した宇宙環境曝露実験の回収試料の分析を進めている。本経費を利用して曝露表面の状態を観察できる顕微機能を持つことができた。 これらの研究を理論的に解釈するために、現在シミュレーションを中心とした理論的な計算を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の中でも実験的研究(担当主に左近)はほぼ当初の予定通りのスケジュールで順調に進んでいる。窒素混入炭素質物質を地上実験で合成して分光測定を行い、観測との対比を行っている。 一方これに対する理論的解析はやや遅れている。国際宇宙ステーションで実施した炭素質物質と荷電粒子との相互作用過程に関する実験を解析するために、衝突過程のシミュレーションを行っている。このシミュレーションについては、これまでに荷電粒子とCO分子との衝突過程に関する理解は進んだ。しかし研究対象をより分子量が大きい炭素含有分子(多環芳香族炭化水素分子)へと拡張することに難航している。これは新型コロナウイルスの蔓延のため、またオンライン授業に多大な労力を費やしており、プログラム開発の時間の確保が難しく進行が遅れている。このため本研究の理論およびシミュレーションの研究(担当主に中村)は当初の予定からやや遅延している。2022年度はこの遅延を回復するための最大限の努力を行いたい。 なお新型コロナウイルス蔓延の影響で多くの学会が中止または延期になっていたため学会発表のスケジュールは当初の予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
現在プログラム開発中の環状多環芳香族炭化水素分子と荷電粒子の衝突過程を理論的に解明することを目指す。またこれまでの研究では新星が有機物の塵を生み出す過程を定性的に模擬して有機物の塵の室内合成実験を行い、新星に観測される赤外線スペクトルの特徴が、アミンを含有する有機物の塵である急冷窒素含有炭素質物質 (Quenched Nitrogen-included Carbonaceous Composite: QNCC) によって再現されることを示した。今後はこの研究をさらにすすめ、QNCCを構成する分子及びチリの成分分析を行っていきたいと考えている。またこの実験結果と国際宇宙ステーションにおける炭素質物質の宇宙暴露実験との結果と比較を行う。マイクロ波電源プラズマ生成装置による有機物の塵の合成実験は様々な実験条件の元で継続し、その赤外線およびX線分析に加えて、天体環境に観測される有機物の赤外線放射の性質との比較から、星間有機物の性質を制限する研究を継続する。また国際宇宙ステーションを利用した宇宙環境曝露実験の資料の分析結果をまとめ論文発表を行う。これらの実験結果を理論的に解釈をするための分子動力学シミュレーションを行う。一つは分光スペクトルの量子化学計算であり、もう一つは生成過程の解明である。そのためには、生成過程を解明するための窒素炭素間の原子間相互作用を適切なポテンシャル関数で表すことが望まれる。また環状炭素原子に窒素分子が混入した場合での原子間多体ポテンシャルを構築し、これに基づいたシミュレーションを行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の進行は新型コロナウイルスの蔓延によって影響を受けた。研究代表者はオンライン授業の負担が多大になり研究に費やす時間が著しく減少せざるを得なかった。またこれに伴い、過去2年間は国際研究協力や国内外での研究出張、日本国内の学会出張が困難な状況にあった。次年度は研究成果を国際的な学会で研究発表することを積極的に行いたい。このために未使用の旅費を活用したい。また実験的研究についても、炭素質物質の窒素ガス混入の比率を変化させることによりスペクトルの変化を調べ、様々な古典新星でのスペクトルの様子と比較することを行いたい。このために分光スペクトルを簡便に計算できるソフトウェアを導入する予定である。また論文発表のため論文校正とオープンアクセス化にも本経費を使用する予定である。
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