研究課題
宇宙空間における有機物やダストがどのような化学組成をもち、それらが荷電粒子などとの衝突を経て、どのように物質の進化に寄与したか?さらに我々の近傍である太陽系における有機物とどのような関連を持つのか?これらを明らかにするため観測、実験、理論。シミュレーションなどのさまざまな手法を用いた多角的な研究を実施した。星間空間で水素分子についで多い分子である一酸化炭素(CO)は多くの有機分子の素材となっていると考えられる。そこでCO分子と荷電粒子の衝突で、内部励起と分解がどのように起こるかをモデルとシミュレーションを使って調べた。特に太陽風(または恒星風)の主成分である陽子との衝突の衝撃により分子が解離する過程に着目し、衝突励起解離を起こす閾値エネルギーを評価した。同様な計算をより分子量の大きい有機分子(芳香族炭化水素など)と荷電粒子との衝突現象に適用することを試みている。星間空間にはダストが普遍的に存在する。これらの物質の同定や形成過程の理解は依然として不十分である。本研究ではマイクロ波電源プラズマ生成装置を用いて、星間ダストの組成を想定した窒素を含有する有機物のダストの合成実験を行なった。分光測定の結果、合成された急冷窒素含有炭素質物質(QNCC)は観測によって得られた古典新星周囲の有機物放射を再現する。この結果により星間ダストにはアミンの形態で窒素が含有される可能性が強く示唆される。さらに国際宇宙ステーションを利用した炭素質ナノ物質の宇宙環境曝露実験の回収試料の変性に関する分析を進めている。サンプルの組成変成を解釈するために、地上実験との対比とシミュレーションを中心とした理論的な計算を行っている。
3: やや遅れている
令和2年度から令和4年度にかけて、新型コロナウイルスの蔓延にともない、オンライン授業などの作業に多大な労力を費やし、十分な研究時間が確保できなかった。また学会や研究会での情報交換も困難な状況であった。このため理論およびシミュレーションの研究(担当は主に中村)の進行は当初の予定からやや遅延している。令和4年度後半から研究も軌道に乗り始め国際学会等での発表も行えるようになった。令和5年度はこれまでの研究の遅れを挽回すべく鋭意努力したい。一方、実験および観測に関する研究については(担当は主に左近)ほぼ当初の予定どおり、比較的順調に進行している。
今後とも観測、実験、理論計算などの多角的な手段を用いた研究を継続していく。実験的研究の面では実験室で合成されたアミンを含有する有機物の塵である「急冷窒素含有炭素質物質 」(QNCC) を構成する分子およびダストの成分分析を行っていく。このためマイクロ波電源プラズマ生成装置による有機物のダストの合成実験を続け、試料に対して赤外線およびX線を用いた分光学的解析を行う。これらの結果と天体環境において観測される有機物の赤外線放射の特性との比較を行う。並行して核融合科学研究所で実施した有機物ダストへの窒素プラズマとの相互作用に関する実験の結果とも比較する。以上のような研究を通して宇宙の星間有機物のダストに、窒素がどのように取り込まれ、それが分子進化にどのような役割を果たすかを調べる。さらに太陽系内の有機物の塵との進化との関連を考察する。また本研究での実験結果と国際宇宙ステーションで行った炭素質物質の宇宙暴露実験との結果を比較する。このため理論およびシミュレーションを用いて国際宇宙ステーションを利用した宇宙環境曝実験の結果の解析を行う。衝突シミュレーションを実施するために、窒素炭素間の原子間相互作用を適切なポテンシャル関数で表す。また環状炭素原子に窒素分子が混入した場合での原子間多体ポテンシャルを構築し、これに基づいたシミュレーションを行いたい。なお本研究の成果を公表するにあたってに学術論文発表のみならず、その一部を一般の方(科学を専門としない読者)にも理解してもらえるよう、一般向けの書籍の執筆を計画している。
コロナウイルス蔓延の影響で研究時間を確保できず、研究の進展が予定より遅れたため、研究に必要な備品や消耗品の購入を延期した。さらに予定していた学会出張の一部分はオンライン開催となり旅費の使用が予定額より少なくなった。以上のような理由により令和4年度に予定していた経費支出は令和5年度に回したい。令和5年度は計算プログラム開発のためのソフトウェアのおよび大規模計算のための計算機使用に加え研究発表のための旅費、論文発表のための投稿料金及び論文校正料などに用いる予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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