研究課題/領域番号 |
20K04032
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
前原 裕之 国立天文台, ハワイ観測所, 助教 (40456851)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 恒星フレア / 恒星黒点 |
研究実績の概要 |
本研究は、TESSによる高精度の測光観測と、地上の中小口径望遠鏡による高時間分解能の分光観測を同時に行うことで、(1)フレアの統計的性質やフレアと黒点・活動領域の関係および(2)フレアに伴う高速度のプラズマ噴出現象の有無を調べること、の2点を主な目的としている。2020年度にはM型フレア星YZ CMiのTESSによる測光観測データと光赤外線天文学大学間連携の参加機関の望遠鏡による観測データを用いた研究を行い、以下のことを明らかにした。 a. Hα線で観測されたフレア4件のうち1件では可視連続光の増光がなく、そのフレアではHα線線輪郭の変化から、80km/sほどの視線速度を持つプラズマ噴出現象が起きていたことが示唆される。 b. YZ CMiのフレアで観測されたフレアのエネルギーと噴出するプラズマの質量は、太陽フレア・CMEのフレアエネルギーとCME質量の相関の延長線上にのるものの、噴出するプラズマの運動エネルギーは太陽のCMEで知られている相関から予想されるよりも2桁程度小さい。 c. Hα線と可視連続光の恒星の自転による強度変動は、フレアの発生頻度が低い時は反相関の変動を示すが、フレア発生頻度が高い時期にはHα線の強度は自転による変動がほとんど見られなくなる。また、フレアの発生頻度や最大のフレアのエネルギーにも自転による変動が見られない。 これらのことから、研究目的の(1)については、少なくともM型フレア星YZ CMiでは、自転による可視連続光の変動を作っている巨大黒点の周囲を取り巻くようにフレアを起こしやすい活動領域が分布している可能性が高いことが分かった。また、研究目的(2)に関しては、この天体でプラズマ噴出現象が観測されたフレアは継続時間が長くゆっくりと進行するフレアであり、プラズマ噴出現象が起きやすいフレアとそうでないフレアがあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではTESSによる高精度の測光観測と地上の中小口径望遠鏡による分光観測を組み合わせて、研究を進めていく計画である。TESSのデータ解析については、2020年度中にTESSのデータから恒星の自転による変動成分とフレアによる増光を分離する手法を開発し、これ実際にM型やK型のフレア星に適用してフレアの検出が行えるようになった。また、分光観測では京都大学せいめい望遠鏡や国立天文台188cmのほか、光赤外線天文学大学間連携の参加機関の望遠鏡を用いて、2020年度末までにM型、K型、およびG型のフレア星8天体の観測を実施し、29件のフレアを観測することができた。これらの観測結果のうち、2020年度中にはM型フレア星YZ CMiの観測結果から査読論文1篇を出版することができた(Maehara et al. 2021, PASJ 73, 44)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的の1つにフレアに伴って発生するプラズマ噴出現象の探索があり、これまでの観測結果からはその候補と思われるイベントはまだ2件、明瞭なスーパーフレアに伴って発生しているものに限ると1件のみしか検出できていない。このため、2021年度も引き続きTESSによる測光観測と同時に、せいめい望遠鏡および188cm望遠鏡を用いた観測を継続する。2020年度と同程度の観測時間が確保できれば、1-2例のスーパーフレアの分光観測データを得ることができると予想される。これにより、スーパーフレアに伴うプラズマ噴出現象の発生頻度、噴出するプラズマの速度や質量とフレアの規模との相関といった、統計的研究につなげる。また、それらの恒星スーパーフレアの観測データと比較するため、太陽のフレアやプラズマ噴出現象を、太陽を星として観測した場合にどのように観測されるのか、といった観点からのデータ解析も今後実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大の影響で、参加予定だった国内・国際研究会等が全て中止や延期、オンライン開催への変更となり、旅費として使用見込みだった分を使用しなかったため。2021年度もこの状況は変わらないと思われるため、旅費として使用する予定だった直接経費の一部を188cm望遠鏡の使用料(その他)にまわし、分光観測の時間数を当初予定よりも増やす予定である。
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