研究課題/領域番号 |
20K04036
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
馬上 謙一 北海道大学, 理学研究院, 助教 (70624758)
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研究分担者 |
川崎 教行 北海道大学, 理学研究院, 助教 (50770278)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プレソーラー粒子 / イオン注入 / 恒星風 |
研究実績の概要 |
プレソーラー炭化ケイ素(SiC)は炭素星やAGB星の星周で形成したと考えられている. これらの星では太陽系とは異なる核反応が進行しているため,太陽系とは異なる同位体組成を持つ.またこれらの星周で形成したSiCは高エネルギー粒子を含む恒星風や星間での銀河宇宙線が照射されていると考えられる.SiCに残されている恒星風起源希ガスの深さ方向のプロファイルは恒星風のエネルギーを反映していると考えられる.本研究では同位体ナノスコープを用いたプレソーラーSiC中のHe測定を行い,深さ方向の分布を測定した. プレソーラーSiCはMurchison 隕石から抽出したKJGグループを用いた.KJGはMurchison隕石に物理・化学的処理を行い,さらに密度と粒子の大きさによる振り分けを行い分類した粒子の内,平均的に2マイクロメートルの大きさを持つ粒子群である. KJGの4Heの深さ方向の分布とフルエンスを見積もるために,27 keVで4He+を1E15 /cm2照射したSiCスタンダードを用意した.このSiCスタンダードを用いて,4He+,12, 13C+,28, 29, 30Si2+が定量できるような分析条件を確立した.そして,この分析条件を用いてKJGのHeおよびSi,Cの深さ方向分析を行った. KJGの4He深さ方向分析の結果,主要元素であるSiとCはスタンダードと同様のイオン強度が一定なプロファイルが得られた.SiとCの同位体は,SiCが形成した恒星の化学組成や大きさに依存しているため,SiCの形成環境を知る重要な手掛かりとなる.そして, 4HeもKJGから検出され,更に,深さ方向に分布が見られた.これは恒星風がHeイオン注入されていることを示唆しており,今後,Heプロファイルから恒星風のエネルギーを見積もる手法を検討する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は,(1)プレソーラーSiCの同定,(2)スタンダード試料を用いた分析条件の確立,(3)同位体ナノスコープを用いたプレソーラーSiCの深さ方向分析,を行った. (1)プレソーラーSiCの同定は,北海道大学に設置されたSEM-EDSシステムを用いた.試料は金板上にKJG粒子が散逸した状態で乗っている.この金板上のSiC粒子を同定するために,SiおよびCの元素マップを取得した.この画像から,SiとCがともに検出された粒子を選び出すことで,プレソーラーSiCを同定した.また,高解像度の電子顕微鏡画像(backscatter electron image)も取得することで,同位体ナノスコープを用いた分析の際の“地図”も作成した. (2)上記のSiCスタンダードを用いて,同位体ナノスコープを用いた分析での最適な条件を決めた.本研究では,SiとC同位体比は個々のSiC粒子の形成環境を知るための手掛かりとなるため,同位体分析を行う際に妨害イオンが含まれないような質量分析計の条件を吟味した.この分析条件での質量分解能はイオンのピーク半値幅でおよそ30,000だった. (3)(1),(2)で得られたデータをもとに,同位体ナノスコープを用いてKJGプレソーラー粒子の1粒ずつの深さ方向分析を行った.現在までに5粒ほど測定した.主要元素であるSiとCはスタンダードと同様のイオン強度が一定なプロファイルが得られた.また,Heの検出にも成功した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,同位体ナノスコープで測定した粒子のSi,C同位体比がどの程度確からしく定量できているかを確認するために,CAMECA ims-1280HRでの再測定を行う.それと並行して,同位体ナノスコープでの分析再現性を評価する.これには,SiCスタンダードを用いて複数回の深さ方向分析を行い,分析再現性がプレソーラーSiCの形成環境を議論できるレベル化を確認し,出来ないようであればims-1280HRと連携した分析手順を検討する予定である. これまでは,Heの深さ方向分析のみを行ってきたが,これからはNe同位体と3Heもターゲットとして分析を進める.そのために,同位体ナノスコープでの分析条件を改めて精査し,追加する微量同位体が妨害イオンに重なっていないかを確認し,それぞれの同位体のバックグラウンドレベルを測定する. 3Heや21Neは宇宙線照射起源の核種であるため,星間空間での滞在時間の推定に役立つ.また,3Heと21Neは元々保持している量が少ないため,検出することができれば検出量がほぼすべて宇宙線照射起源HeおよびNeとして扱うことができ,年代測定を簡単に行うことができる.また,20Neは4Heと同様の捕獲プロセスである可能性が高いため,どのような恒星風を受けてきたかを知るための手掛かりになる.これらの希ガス同位体の定量をすることで,プレソーラーSiCが形成した時の環境から,星間に飛び出して太陽系に取り込まれるまでの時間スケールをそれぞれの粒子1粒ごとに決めることができるかもしれない.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に残額調整をし忘れたため.
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