研究課題/領域番号 |
20K04039
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
横田 勝一郎 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (40435798)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 質量分析 / 地球型惑星 / 衛星 / 物質輸送 / 大気散逸 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、地球や月の周回探査機による質量分析データを利用して各天体に対して放出及び供給される物質を網羅的に査定し、地球・月系に起きている物質輸送を定量的に評価し、その物理機構の解明やモデル化を行うことである。令和2年度はジオスペース探査機「あらせ」の観測データから地球から散逸する成分として、主要な酸素イオンだけでなく窒素イオンや分子イオンについても挙動を明らかにした。窒素イオンや分子イオンは供給源となる地球電離圏の領域を示す情報となるため、散逸機構解明に繋がる可能性を現在も探索している。研究の進展と共に観測データから窒素イオンや分子イオンを抽出するツールを整備した。これらの成果は修士論文1篇及び、幾つかの学会発表や誌上発表となった。 月探査衛星「かぐや」の観測データを利用して月面から放出するイオンについて放出量を精査した。揮発性元素として炭素イオンの放出が顕著であり、また地域差があることを明らかにして、巨大衝突説による月の起源に修正を求める結果となった。また、難揮発性元素の放出量の分布から、このような天体からの放出されるイオン観測から天体物質が始原的か進化を受けたかを区別できる可能性を示した。今回の結果を現在開発中の火星衛星探査計画(MMX)用質量分析器の性能・仕様や運航中の水星探査機BepiColombo用質量分析器の観測計画にも反映させるよう努めている。MMX用質量分析器は2020年10月に基礎設計審査会を通過し、エンジニアリングモデル開発を開始している。BepiColomboでは機上ソフトウェア改訂に向けたビーム試験を行った。これらの成果は修士論文1編となり、複数の学会発表や誌上発表としてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画では課題1)地球から流出するN+の統計的解析、2)地球から流出するその他重イオンの探索、3)月から流出する揮発性イオンC+, N+, H2O+の評価、4)月から流出するSi+と金属イオンの評価、5)月に到来する地球起源イオンの探索についてそれぞれ並行して段階的に取り組む予定であった。課題1)、3)、4)についてはそれぞれ解析ツールを整備し、イベントについては十分な精査出来る状況下である。課題1)ではN+/O+比が静穏時は緩やかな探査機位置依存(磁力線が接続する緯度の電離圏での存在比を反映する)を示し、磁気嵐が起きると突如減少する(低高度の電離圏での存在比を反映する)ことを複数の磁気嵐イベントの解析から示した。現時点ではイベント解析に留まっているため、今後解析環境を整備して長期間の観測データに対して処理を行う予定である。課題3)及び4)では、C+やMg+/Si+、Fe+/Si+の放出量について全球MAPを作成するに至った。今後は、より存在比の小さなイオン種についての取り組みとなる。課題2)と5)は発見自体が成果となるオプショナルな課題である。他の課題に対して発展的なデータ解析となり整備したデータ解析環境が流用可能なため、付随的に今後も取り組みを続ける。コロナ禍により研究発表や打ち合わせは大きく制約を受けたが、WEB会議システムの利用により研究自体は大きな影響を受けなかった。一方で本研究成果を反映させる火星衛星探査計画(MMX)用質量分析器や水星探査機BepiColombo用質量分析器の関連作業については、移動や設備利用が制限されるために申請時の予定と比べて若干の遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
3年計画の1年目において、データ解析に必要なツールや解析環境はほぼ整備を終えて、各イベントについては十分な解析が出来る状況である。今後は長期間の観測データに対して、自動的に網羅した処理を行うよう調整を続ける。課題1)では本研究によって可能となったN+/O+比の30分分解能観測により、ジオスペースでのN+/O+比の静穏時の地域依存性や磁気圏活動度依存性を調査し、地球電気圏からの散逸機構に必要な情報の抽出に努める。課題3)及び4)ではより存在比の小さなイオン種について、これまでと同様の観測データ解析を実施する。カウントが少なく精度が低い観測データを補うため、TRIMなどの数値モデルを利用した較正データの再構築や、模擬試料にイオンビーム照射する実験なども検討中である。オプショナルである課題2)と5)についても解析環境の整備と共に進展させる。 共同研究者との研究打ち合わせを活性化させ、申請時の研究計画に留まらず発展的な研究テーマの構築についても取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、予定していた学会発表及び研究打ち合わせにおいて移動が制限され、全てWEB会議システムの形態となった。また、2020年度内の使用が必須である別予算が配当され、本研究で購入予定であったIDLライセンス及びデータ解析用サーバが購入した。論文出版は応募型の大学経費で賄うことができた。以上より、2020年度は本研究経費による支出を必要としなかった。 2021年度はサーバを含めた開発環境の更なる増強に本研究経費を使用し、複数人で同時に解析を実施するよう整備する。学会参加のために確保した旅費は当面不要となるため、観測データの解析から得られた知見を検証するための室内実験や、将来観測計画への成果入力作業に対して利用する計画である。
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