研究課題/領域番号 |
20K04041
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
三宅 洋平 神戸大学, システム情報学研究科, 准教授 (50547396)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 宇宙プラズマ / 境界領域プラズマ / 固体プラズマ相互作用 / 小型天体 / 表面帯電 / 超高層物理学 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究課題では、固体表面と宇宙プラズマの相互作用に起因する乱れが、如何に周囲に波及するか、という学術的な問いに、粒子モデル運動論プラズマシミュレーションを用いて取り組む。2022年度の実施内容を下記に示す。 固体表面に流入するプラズマ電荷の平衡化過程である表面帯電現象が、月や小惑星などの小型固体天体表層の電気環境を支配している。従来は、固体天体表面を滑らかな平板と見なした1次元の静電シースモデルに基づき、当該電気環境が理解されてきた。実際には天体上の地形やレゴリス層の存在により、様々な空間スケールの凹凸が認められるはずであり、滑らかな平板を仮定した電気環境の描像が局所的に成り立つとは限らない。2022年度は天体上にも存在すると考えられる、深さを持った孔に対して太陽風プラズマが降り注ぐ状況を仮定した数値シミュレーションを実施した。その結果に基づき、孔底の帯電状態と周囲の静電場構造を検討した結果、従来の帯電現象では主要な電流項とはみなされてこなかったイオン電流が支配する新たな帯電機構を見出すことに成功した。これは孔底に対する電子とイオンの近接性の差から生じるものである。イオン流が電流の平衡化過程を支配するため、孔底の電位は太陽風イオンのバルク運動エネルギーに相当するkV程度に達する可能性がある。この結果より、従来から受け入れられている固体天体の表面電位は空間的に平均化された値であり、局所的な凹凸部分には平均値から正と負に大きくばらつきを持つ帯電状況が想起される。また、上述の数値シミュレーションでは、孔底に形成される電位障壁に起因する太陽風イオンの静電的反射/散乱の兆候も見られており、このような不規則な帯電が遠方の宇宙空間内の荷電粒子環境にも影響を及ぼす可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度は、月・小惑星と周辺プラズマの主要な相互作用過程である帯電物理の理解について、顕著な進展が認められた。これは天体表面が有する電位という側面のみならず、帯電した天体が周囲のプラズマ環境に及ぼす影響の観点からも重要な結果である。プラズマと天体固体表面が接する境界領域の静電場環境に関して新たな物理描像を示唆する成果が得られ始めており、これにより今後目指すべき研究発展の方向性が明確になった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、固体天体の表面形状の不規則性に起因する帯電分布の統計的性質を明らかにするため、従来の決定論的な数値シミュレーション解析の枠にとどまらない数値研究アプローチを模索する。一つのアイデアとして、数値シミュレーション解析に機械学習に基づく代理モデル解析を援用することで、膨大なパラメータ空間に対する帯電状態の解析を可能にする方法を模索する。また科学衛星観測研究との連携により、新たに提起した帯電描像が反映された上空プラズマ粒子データの探索に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、2022年度に使用を予定していた大型計算機システムのリプレースに伴う運用停止に伴い、大規模計算資源の追加使用経費が未使用となったことなどが理由である。2023年度より当該計算機システムが再稼働しているため、その使用料と、得られた成果の論文や国内外会議発表に活用する計画である。
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