研究課題/領域番号 |
20K04045
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
岩本 賢一 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (00295734)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イオン分子反応 / イオンモビリティ / 異性体 / 生体関連分子 |
研究実績の概要 |
気相イオンの構造解析を行うため、本年度はイオン移動度分析装置を改良し、性能検証実験を行った。また、イオン-分子反応室として利用するイオンファンネル装置の新規開発を行った。これらの装置開発により、低分子イオンの構造について定量解析が可能となった。この装置を用いて、C6H10異性体の衝突誘起解離を行い、異性体による解離構造の違いを調べた。メチル脱離を引き起こしたC5H7+ は、プリカーサーイオンの構造によらずエネルギー的に最安定な環状構造をとるという実験結果が得られた。この実験結果は、解離過程の遷移状態を含めた量子化学計算結果と一致した。これらの結果から、この装置により衝突誘起解離による低分子気相イオンの構造情報を所得できることが検証された。次に、イオンファンネル装置の内部でイオン-分子反応を生じ、生成物イオンの構造解析をイオン移動度分析計で行った。アセチレンイオンを用いたアセチレン系の逐次反応による生成物は、エネルギー的に再安定な環状構造だけでなく、鎖状構造をとることが明らかになった。イオン-分子反応の生成物中に異性体が混在した場合、一つの構造を取りだすことが可能となれば、構造を制御した逐次反応が可能となる。反応系に添加物を混入させることで反応速度定数の違いから、付加体の比率が変わり、異性体の分離が可能であるという実験結果が得られた。今後、異性体分離に必要な反応系における最適な添加物を探索する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イオンファンネル装置を用いたイオン-分子反応セルの開発は順調に進んだ。特に、矩形波を用いた高周波電圧制御を行った結果、イオンの収束能力や質量依存性についても十分な性能を有していることが判った。矩形波は比較的簡単な電子回路によって作製できるため、装置の汎用化につながると考えられる。イオン移動度分析計のイオン速度の検出方法として、二つのイオンゲートを用い、正確なイオンの速度測定を可能にした。これにより、低分子イオンの構造解析の性能が向上した。イオン移動度分析計を用いた定量実験では、バッファバスの安定供給が必要であるため、マスフローコントローラーを使用している。しかしながら、実験中にマスフローコントローラーの故障、さらに、イオン検出用オシロスコープも故障した。修理期間やコロナ禍によるテレワーク等により、実験時間が不足したため、計画はやや遅れている。 気相イオンの低温基板での反応と構造検出を行うためには、イオンベンダー装置の開発が必要である。当初の予定では、すでに報告されているイオンベンダーを実装する予定であったが、イオン軌道シミュレーションの結果、イオンの収束能力に問題があることが判った。イオン軌道の中心軸にイオンが収束する新しい電極形状を持ったイオンベンダーを考案し、前述した矩形波高周波電圧の発生技術を利用することで、高い収束能力を持つイオンベンダーを開発した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度作製した新規イオンベンダーを組み込んだ低温基板装置を作製する。低温基板へ低エネルギーから高エネルギーまで変化させたイオンの打ち込み実験を行い生成物の変化を観測する。特に低エネルギー衝突の場合、イオンの拡散の影響が大きくなり、イオン検出量が低下する傾向がある。イオンファンネル装置で開発した高周波電場によるイオンの閉じ込め効果を利用し、高い輸送効率をもつ低エネルギーイオン衝突装置を作製する。さらに、低温基板上で生成したイオンの脱離装置を新たに作製する。メタステーブル原子源を脱離源として用いる予定であり、直流放電機構を利用する。この方法では、基板温度の急激な上昇が懸念される。実験によって温度の上昇速度を測定し、新しい手法として高周波バリア放電機構の利用も検討する。高密度なメタステーブル原子源の作製ノウハウを取得する必要がある。また、基板表面実験に対する対照実験として、気相イオン反応による実験も並行して行う。一例として、尿素気体とイオンの反応を観測し、生成イオンの種別と構造を決定する。気相反応での生成物の生成経路に関するポテンシャルエネルギー計算を行い、低温基板での生成物の構造情報に反映させる。尿素分子単独の反応に加えて、水分子を添加し、水の影響を考慮した低温基板表面上での生成と脱離イオンの観測を行い、新規な低温表面反応装置を用いた新しいイオン衝突反応による生体関連分子の生成に関する実験を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画どおり、イオン分子反応を進行させるイオンベンダーを組み込んだ新規なイオンファンネル装置を作製し、予備実験を行った。当初の予想を超える水分子がイオンファンネル内部にアウトガスとして存在することが判明した。令和2年に購入を検討していた真空ポンプの能力として、排気速度の不足が懸念された。そのため、排気速度の大きな真空ポンプが必要と考えられる、どの程度の排気速度が必要であるかを見極める予備実験を行っている。実験結果の解析から、購入機器の選定する。
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