R5年度は、アルマ望遠鏡で取得した金星・火星データのデータ解析を継続した。観測時のフラックス較正に起因する誤差を補正し、金星・火星におけるCO吸収線のマップを作成した。それらのCOマップから風速に起因するドップラーシフトのマップを導出した。そうして得られた風速場分布を、大気大循環モデルの数値実験結果と比較し、モデル内における大気重力波のパラメタリゼーションとの整合性を議論した。その結果、金星に関しては、過去の研究で示唆されていたような重力波パラメーターよりも、むしろ空間スケールが比較的大きな重力波の存在を許容するパラメーターの方が観測と整合する結果となった。火星に関しては、全球ダストストーム期間中の風速場の貴重な観測的情報が得られた。これらの結果は、12月に開催されたアルマ望遠鏡10周年国際研究会で発表し、現在、投稿論文として投稿準備中である。 研究期間全体を通じては、アルマ望遠鏡の惑星観測データの解析ノウハウを定量的に評価できたことが最も大きな成果と考えている。広がった面光源である惑星をアルマ望遠鏡で観測した際、空間周波数の短い成分がフィルタリングされることなどは元々知られていたが、それが、惑星上で様々な空間スケールで分布している大気微量成分を観測した際にどのような影響を及ぼすのかは、本研究開始前には定量的には議論されていなかった。また、本研究の最中に判明した、アルマ望遠鏡のフラックス較正における誤差に関しても、輝度の不確かさだけではなくスペクトルの形状をも変化させるということは、本研究が定量的に評価したことである。 本研究の成果を発展させるべく、本研究で培われたアルマ望遠鏡のデータ解析のノウハウをもとに、今後の火星大気観測提案の検討を進めている。特に火星大気化学の未解明問題を解くため、最新の大気化学モデルの開発研究に参画しつつ、鍵となるHOx分子の観測成立性を議論した。
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