研究課題/領域番号 |
20K04048
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
道上 達広 近畿大学, 工学部, 教授 (60369931)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小惑星リュウグウ / 衝突実験 / コンドライト隕石 / X線CT撮像実験 |
研究実績の概要 |
最近の研究で、小惑星リュウグウに含水鉱物の形で水が存在することが発見された。近年、地球の水は小惑星リュウグウのような炭素質小惑星から供給された可能性が大きいと考えられている。その供給形態の1つとして、小惑星表層のレゴリス層と呼ばれる細粒の粒子が、宇宙空間に放出され、惑星間塵として地球にもたらされることが挙げられる。しかしながら、小惑星リュウグウのような微小重力下で、どのようにレゴリス層が形成されたかよく分かっていない。 レゴリス層の主要な形成要因として、小惑星の昼夜の温度差がもたらす熱疲労による表面物質の細粒化、隕石衝突による破片の再集積の2つが考えられる。表面物質が細粒化された場合、太陽風や微小隕石による宇宙風化作用で、小惑星表面のスペクトルが変化する。また、隕石衝突によるクレーター形成やそれに伴う表層のガーデニングなど、小惑星表面は当初あった状態から変化する。 本研究では、レゴリス層は隕石衝突によって形成されたとの立場で、炭素質小惑星と同じ炭素質隕石に対して衝突実験を行い、衝突破片を調べることにした。具体的には、衝突前後の炭素質隕石の内部構造をX線CT撮像することで、クラックの空間分布、特にコンドリュール中のクラックの進展を調べた。本研究の学術的な問いは、「炭素質小惑星のレゴリス層形成は、衝突破片の再集積か?」である。本源的には、炭素質小惑星リュウグウの表層形成メカニズムの解明であり、将来的には、レゴリス層からの惑星間塵への移行など、地球の水の起源に繋がる研究になる。 2020年度は、炭素質隕石であるアエンデ隕石に対して実験を行い、4つの標的において合計33個のコンドリュール中のクラック進展を調査した。その結果、33個の約7割がコンドリュールの境界を沿うように成長していることが新たに分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭素質隕石であるアエンデ隕石に対してX線CT撮像実験および衝突破壊実験を実施した。隕石を1辺1cm程度に切断し、衝突前の隕石を、東北大学にあるX線CTを用いて隕石内部を詳細に撮像した(解像度10μm/boxel)。次に、JAXA宇宙科学研究所において、隕石に対して衝突実験を行った。衝突後の最大破片を再度、東北大学にあるX線CTを用いて隕石内部を撮像した。この撮像データから、コンドリュールの3次元形状モデルを作成し、コンドリュール中のクラック進展を詳細に調べた。その結果、多くのクラック(4つの標的で測定した33個のコンドリュール中の7割近く)がコンドリュールの境界を沿うように成長していることが新たに分かった。これは(境界に関係なくクラックが成長する)普通隕石と異なる傾向を示している。 なお、今回の実験で得られた一部の知見は、Michikami and Hagermann, 2021, Icarus, 357, 114282の査読論文における考察で活かすことができた。
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今後の研究の推進方策 |
アエンデ隕石に加えてマーチソン隕石に対して実験を行う。1年目と同様に、①衝突前の隕石のX線CT撮像→②隕石の衝突実験→③衝突後の隕石のX線CT撮像 を繰り返し実施し、衝突によるクラック成長を調査する。X線CT画像の解析は、多くの時間がかかるが着実に進めていく。将来的には、炭素質隕石に対して行った実験データと小惑星リュウグウ粒子の測定データを比較し、検討を行う。例えば、リュウグウ粒子形状と今回の衝突破片形状が類似しているか、また、リュウグウ粒子のコンドリュール中のクラックの成長が、今回の最大破片中のクラックの成長と類似しているかなどである。これらの比較から、小惑星リュウグウの表層形成条件を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による緊急事態宣言で東北大学でのX線CT撮像実験、JAXA宇宙科学研究所での衝突実験が1回ずつ実施できなかったため、それに必要な物品、旅費が予定よりも少なくなった。その分、次年度に実施予定である。
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