研究課題/領域番号 |
20K04057
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渡辺 力 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60353918)
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研究分担者 |
下山 宏 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (50391115)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乱流輸送 / 植物キャノピー / PIV観測 / 格子ボルツマン法 / 大気安定度 |
研究実績の概要 |
コロナウィルス感染症拡大の影響でPIV観測が実施できなかったため、PIV 観測と合わせて用いる、微気象学的手法の観測システムを立ち上げと、乱流解析の新たな切り口となる圧力変動観測の導入および検証を行った。微気象学的観測システムは、昨年度構築した時間同期システムを組み込むことで、複数の独立した観測データ間の同期を実現した。また、乱流に伴う圧力変動の観測システムを新たに構築した。植生キャノピー層内における圧力変動は様々な要因から観測難度が非常に高いものであるが、構築した観測システムと、時間スケールに着目したフィルター解析により、乱流に起因する圧力変動のデータを取得することが出来た。取得された圧力変動と乱流輸送量の関係を解析した結果、キャノピー下部における運動エネルギー輸送が、キャノピー上端付近の乱流に起因する圧力変動を介して生じる関係が示された。PIV観測と微気象学観測、さらに圧力観測を合わせて用いることで、実測ベースにおける安定成層時の植生キャノピー乱流の実態把握への貢献が期待される。 一方、非中立条件での植生乱流を再現できる数値モデル構築に向け、昨年度までに開発した、格子ボルツマン法に基づく流れのLESモデルに浮力の効果を取り入れ、不安定もしくは安定な成層条件における植生乱流のシミュレーションが可能なモデルを新たに開発した。また、モデルで再現された流れ場において、野外でのPIV観測を模したトレーサー実験を可能にするため、流れの中に放出された粒子状物質の挙動をラグランジュ的に追跡するモデルのコードを開発した。他分野への応用も兼ねたテストとして、開発したモデルを地吹雪のシミュレーションに適用し、その再現性を確認したところ、質量フラックスの高度分布や高度別の粒径分布の特徴などについて、過去の観測例と整合的な結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度もコロナウィルス感染症拡大の影響でフィールド観測の実施が制限されたため、当初計画していた現地でのPIV観測データを取得することはできなかった。しかし、観測システムの高度化や圧力変動に着目した新たな観測手法の開発などを進めることができ、計画よりも高度な観測を実施できる準備を整えることができた。また、数値モデルの開発・検証においては、当初の計画では想定していなかった、格子ボルツマン法で再現された乱流場の中で浮遊する粒子をラグランジュ的に追跡するモデルを構築することができ、その成果を国際誌に投稿する準備を始めることができた。それらを総合的に勘案すると、本研究計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発した観測システムとPIV観測システムを用い、森林内における乱流の空間構造を観測する。観測で得られた風速やトレーサーの移動パターンを基に、スウィープやイジェクションと呼ばれる輸送に寄与する乱流イベントを検出して、それらの発生頻度や輸送効率などについて大気安定度ごとの統計を求める。さらに、各イベント時における風速の空間変動を安定度別にコンポジットすることにより、輸送に寄与する乱流の空間構造と大気安定度との関係を明らかにする。ただし、今後の感染症拡大の状況によっては、多人数の参加を要するPIV観測の実施は控え、それに代えて圧力変動に着目した微気象学的観測を実施することにより、キャノピー下部における輸送に寄与する乱流構造と大気安定度との関係を統計的に明らかにする。 数値モデル解析については、これまでに開発した非中立時の乱流とスカラーの移流拡散を再現するモデルを、自然対流や熱輸送を伴うキャビティ流など浮力が関与する基本的な流れの再現性や、本研究で実施される観測結果との整合性を確認しながら検証を進める。このモデルを用い、大気安定度や植生条件を変えた数値実験を実施。運動量・熱フラックスおよび乱流運動エネルギーの収支式における各項のウェーブレット解析や速度・スカラー場の相関解析などを用いて、スウィープやイジェクションの時空間構造を各条件別に解析する。それにより、輸送に特に寄与する乱流イベントの構造や、その形成・消滅に関わるメカニズムが、大気安定度に依存してどのように遷移し、結果として輸送効率が時空間的にどのように変動するかを明らかにする。 なお、屋外観測の実施が再び著しく制限される場合は、後半に述べた数値解析を重点的に進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、コロナウィルス感染症拡大の影響でフィールド観測の実施が制限されたため、現地におけるPIV観測を実施することができなかった。そのため、当該目的に使用予定であった観測機材等を購入するための消耗品費、旅費及び謝金を使用することができなかったことにより、次年度使用額が生じた。これらの経費は、翌年度に実施される観測に際して使用する予定である。
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