2022年度は、観測施設のコロナ感染症による規制が緩和されたため、森林キャノピー層内の乱流を可視化するPIV観測を実施した。PIVを森林スケールに適用するのは初めての試みであり、観測システムの構築から行った。トレーサ粒子のシーディングシステムは、キャノピー層全体に粒子を拡散させるため、既存の40mの観測タワーを用いて高さ方向に展開し、固定プラットフォームとした。これに対し撮影システムは、高さ10mでの撮影が可能な可搬式プラットフォームを構築した。撮影地点を高さ10mに設定したことで、森林キャノピー層内の流れ場の鉛直断面構造に対し、ゆがみの無い映像データの取得が可能となった。さらに、撮影プラットフォームを可搬式にしたことで、様々な風向及び撮影範囲に対する観測展開が可能となった。このシステムを用いた結果、地表面から森林上空へと向かうキャノピーサイズのスケールを有する乱流変動や、鉛直変動成分をほとんど持たない非常に大きなスケールで存在すると考えられる非乱流変動の可視化映像の撮影に成功した。ただし、課題期間全体を通してシステムの構築と予備実験が予定より遅れ、観測を実施できたのが最終年度の末であったため、当初予定していた観測データの詳細解析や数値モデルによる再現シミュレーションは課題終了後に引き続いて進める。 一方、PIV観測結果を再現することのできる、格子ボルツマン法を用いたラグランジュ移流拡散モデルについては、その開発がほぼ完了した。上述したPIV観測の遅延のため、モデル検証のテストケースとして、乱流中における粒子の移流拡散現象の一種である地吹雪を対象とするシミュレーションを実施し、過去の観測結果を十分な精度で再現することを確認した。さらに、乱流の空間構造と粒子の移流拡散場との関係に関する解析結果も含め、取りまとめた成果を国際誌に投稿した。
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