本研究の目的は、「広域かつ高解像度の気象シミュレーションに、下層冷気の変動解析に効果的な温位座標解析を適用して、亜寒帯海域起源の下層冷気が夏季に発生した2つの極端現象(豪雨と低温)の発生に与えた影響を解明すること」である。令和2-3年度は、2019年7月の低温事例を対象とした。主な結果は下記の通りである。1)気象官署のデータを用いて、各観測点における日射の経年変動を調べた。2019年7月は、変動の大きい地点についてみると、過去50年程度のデータ期間中、記録的に低い日射量であることがわかった。2)2019年7月の低温事例を再現した、気象シミュレーションデータを解析し、北日本・東日本の周辺域について、下層冷気の分布の特徴を調べた。その結果、太平洋の沖合から北日本・東日本に向かって、西向きに下層冷気が吹き寄せていたことがわかった。特に、仙台平野から関東平野において、冷気の進入と蓄積が顕著であった。令和4年度は、2018 年 7月上旬の豪雨事例を対象とした。大気再解析データを用いて、豪雨発生の要因の一つとして挙げられている、オホーツク海高気圧起源の下層冷気の分布と変動を解析した。その結果、西日本を中心に記録的な大雨となった期間(2018年7月5-8日)の前半は、オホーツク海に厚く分布する下層冷気が日本海北部から日本海を南下し、梅雨前線帯に流入していた。しかし、期間の後半は、北海道を迂回した東寄りの気流によって下層冷気が日本海に流入したあと、梅雨前線帯に南下していたことがわかった。
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