研究課題/領域番号 |
20K04061
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石岡 圭一 京都大学, 理学研究科, 教授 (90292804)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 3次元スペクトル大気大循環モデル / 成層圏準2年周期振動 / Pekerisモード / 線形固有値解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は, 鉛直方向にもスペクトル法を用いた3次元スペクトルメカニステック大気大循環モデル(MCM)を構築し, それを高度に最適化・並列化することによって高速動作するように整備して本研究自体および研究コミュニティでの活用に寄与すること, および, 整備されたMCMを用いて初めて可能となる大気力学研究に対する新たなアプローチを試みることである. 2022年度は, 2021年度に行った3次元スペクトルMCMの定式化について論文に発表したとともに, 作成した3次元スペクトルMCMを用いて, Yao and Jablonowski (2015)が示しているMCMにおいて成層圏準2年周期振動(QBO)的な振動現象が生じるかを, 鉛直差分法のモデルとも比較しながら調べた. 結果として, 3次元スペクトルMCMでは鉛直差分法のモデルと違ってQBO的振動は生じず, かつ鉛直差分法のモデルでも鉛直解像度を高めていくとQBO的振動が生じなることが明らかとなった. この結果は, MCMにおけるQBOが, 鉛直差分による離散化誤差のために生じている可能性を示すものである. この結果については投稿論文を準備中である. また, 本研究で作成した3次元スペクトルMCMを線形化することにより, 帯状の基本場を与えた場合の大気の自由振動の固有値を計算できるプログラムを作成した. 2022年1月のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ(HTHH)の噴火の際に検出されたPekerisモード(Watanabe, et al, 2022)の等価深度に関して, そのプログラムを利用して等価深度を計算したところ, Salby (1979)による等価深度の計算法に不備を発見することにつながり, Pekerisモードの等価深度の計算について論文を投稿し, 掲載が決定している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は, 本研究を進めるにあたって土台となる3次元スペクトルMCMについて, その定式化を論文発表できただけでなく, 並列化などの最適化を十分に施した高速実行可能なプログラムを作成し, それを利用して, 中緯度の傾圧擾乱の時間発展における不安定周期軌道の抽出にも成功した. またMCMの定式化の副産物として得られた傾圧トイモデルを使った乱流計算でも, エネルギースペクトルの羃が波数域によって変化するなどの興味深い結果が得られているだけでなく, MCMのプログラムを利用して, MCMにおけるQBO的振動の発生に関する研究もスタートさせており, 鉛直離散化に対する依存性が明らかになってきている. さらに, MCMのプログラムを線形化することによって大気自由振動の固有値計算も可能となり, そこから得られた知見を利用して, 2022年に発見されたPekerisモードの等価深度の計算に関する論文も投稿し, 掲載決定している. 以上から, 研究はおおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は, 本研究で開発された3次元スペクトルMCMを用いて, 鉛直離散化に差分法を用いているMCMで生じる成層圏QBO的振動現象が鉛直離散化誤差によって生じている可能性について調べていく. 関連して, MCMの鉛直離散化誤差によってどのような見せかけの波動が生じているか解析することによって, それがどのようにMCMの計算結果に影響を与えうるのかを明らかにする. さらに, 3次元スペクトルMCMのプログラムを線形化したものを用いて固有値解析することによって, Sakazaki and Hamilton (2020)が全球再解析データのスペクトル解析から抽出した大気自由振動モードの振動数について, 帯状平均帯状流および温度場が自由振動モードの振動数にどのように影響を与えうるのかを調べる. さらに, 3次元スペクトルMCMの定式化の副産物として得られた傾圧トイモデル方程式における強制散逸乱流の数値計算を超高解像度で行うことによって, この系の乱流エネルギースペクトルの傾きの波数領域依存性についてその成因とともに探究していく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は, 学会や研究会での出張のための旅費を計上していたが, 新型コロナウィルスの影響でこれらがほぼ全てオンライン化されたため, 旅費が不要となり, 2022年度には予算執行できなかった. また, MCMを用いた数値計算のために計算サーバーの購入を計画していたが, 2022年度に実施したMCMの数値モデルの開発および鉛直解像度依存性を調べるための数値実験は, 数値モデルの高速化によって, 現有の計算機で実行可能であることが判明したため, 2022年度内に無理に安価な計算サーバーを購入するよりも翌年度に繰り越してより高速な計算サーバーを導入する方が今後の研究の推進に有効であると判断した. また, 2022年度内は, 世界的な半導体の供給不足もあり, 希望するスペックの計算サーバーの購入が困難だったことも理由に挙げられる. 2023年度は, 2022年度に使用しなかった助成金と合わせることによって, 当初計画より高速な計算サーバーを導入することによって研究の推進を加速したいと計画している.
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