研究課題/領域番号 |
20K04062
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
樫村 博基 神戸大学, 理学研究科, 講師 (80635186)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 金星大気 / 全球非静力学モデル / 高解像度計算 / 熱潮汐波 / 南北非対称構造 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き非静力学金星大気大循環モデル「金星SCALE-GM」の開発および高解像度計算を進めた。今年度はまず、SCALE-GMに任意の公転軌道を設定できるようにSCALEライブラリを改修した。そして、金星SCALE-GMの太陽放射加熱に日周期変化成分を加えた。これにより、金星大気で重要と考えられている熱潮汐波を含む計算が可能となった。低解像度設定で熱潮汐波ありの計算を行ったところ、赤道にジェット中心が位置する平均東西風速分布が得られた。従来型の静力学金星大気大循環モデル「AFES-Venus」の結果でも同様の傾向が見られ、整合的である。ただし、金星SCALE-GMの方が、より高速域が赤道に集中した構造になった。 次に、前年度よりも高解像度の計算を試行した。熱潮汐波なしの設定で、水平解像度がglevel 8(水平格子間隔 Δx ~ 28 km)からglevel 10(Δx ~ 6.5 km)までの計算を実施した。glevel 8の解像度では、高度60 kmの鉛直風分布に惑星規模筋状構造がきれいに現れていたが。glevel 9や10では、より細かな構造が目立つようになった。またglevel 8以上では、平均東西風速分布に2種類の準平衡状態が見られた。一方は南北両半球にほぼ赤道対称に中緯度ジェットが存在する状態であり、他方は片半球の中緯度ジェットが弱くなり南北非対称な状態である。500地球日程度の積分期間のうち、南北対称な期間と南北非対称な期間が存在し、一方から他方へ急激に遷移していることが確認できた。さらに、中緯度ジェットが弱い半球では、筋状構造が卓越せず、東西波数2の構造が支配的となることも分かった。大気の南北半球の非対称性は、地上望遠鏡による金星大気観測でも示唆されており、金星大気の構造や長期変動を理解する上での重要なカギとなるかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデル開発、計算ともにおおむね計画通りに進んでいる。大型計算機「富岳」を利用することで、高解像度計算も実現できた。高解像度設定時に南北非対称構造が現れることは予期せぬ結果ではあるが、観測的に示唆されている現象との関連が考えられ、重要な結果だと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
雲層の鉛直対流が生じるように、雲層高度を不安定化させる放射加熱冷却分布を導入する。これにより、鉛直対流を陽に表現した金星大気全球計算を実現する。この結果から、鉛直対流の低安定度層や筋状構造への寄与や相互作用を解析する。余力があれば、南北非対称構造の解析や、より複雑な金星大気放射計算の導入を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の感染状況のため、国内外の出張が困難になり、旅費が使用できなかった。同じ理由で、大学院生の雇用にも制限がかかり、謝金の支払いも行わなかった。このため次年度使用額が生じた。 次年度は、数値計算の進捗と出力データ量を見計らいながらストレージ機器等を購入する。論文投稿費も必要となる予定である。
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