研究課題
本研究では、金星大気の全球非静力学モデルを開発し、雲層の鉛直対流を陽に表現した全球計算を実施した。金星大気全球非静力学モデルは、正二十面体準一様格子に基づく非静力学コア「SCALE-GM」に、従来型の静力学金星大気大循環モデル「AFES-Venus」の太陽放射加熱・赤外放射冷却(ニュートン冷却)の強制を加え、惑星大気の諸定数を金星の値に変更することで「金星SCALE-GM」として開発した。金星SCALE-GMの計算は以下の順で行った。まず、AFES-Venusと同じ東西一様で静的安定な温度場に緩和する強制を与えて、AFES-Venusと同様の結果が得られる事を確認した。次に、太陽加熱の日変化成分を導入した計算を実施した。この計算において、高解像度設定では初期の400地球日程度に渡って南北非対称な構造が維持され、南北対称な場の安定性の弱さが示唆された。これを受けて、従来の金星大気計算では無視されていた、自転軸の傾き(約2.6度)を導入した計算をAFES-Venusで実施した。その結果、冬半球で夏半球よりも中緯度ジェットが10 m/s程度強くなるという有意な季節変動が得られた。その後、ニュートン冷却の基準温度場を静的不安定なものに変更して金星SCALE-GMの計算を実施した。その結果、雲層(低安定度層)高度の夜面を中心に、鉛直対流が全球的に発生することが確認できた。ただし、スーパーローテーションの強度が半分程度になるなど、大規模循環場に顕著な影響が現れた。AFES-Venusによる同様の実験(鉛直対流は調節過程で表現される)でも同じ変化が確認されたため、これは、非静力学の効果ではなく、温度分布の変化による影響と考えられる。本研究によって、金星大気の全球非静力学計算が可能になった。その一方で、大規模循環場の加熱冷却強制に対する敏感さという新たな課題が見つかった。
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日本流体力学会 学会誌『ながれ』
巻: 42 ページ: 290-296