研究課題/領域番号 |
20K04063
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
仁科 文子 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 助教 (80311885)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 東シナ海 / 低塩分水塊 / 黒潮 / 移流 / 大陸棚斜面 |
研究実績の概要 |
九州南西海域亜表層に出現する低塩分水塊の移流経路と消滅過程をFORA-WNP30再解析データを用いて調べた。当初、移流経路を粒子追跡的手法で求め,経路をパターン分類し、パターン毎に経路に沿って水質の変化を調べる予定だったが、低塩分水塊の空間スケールが小さいため、パターン別にコンポジット解析を行なうと像がぼやけてしまった。そこで、比較的規模が大きかった10例について事例解析を試行した。大陸棚斜面域に起源を持つ低塩分水塊が黒潮前線に沿って移流され、屋久島の南のトカラ海峡通過時に急激に塩分が高くなり、北太平洋に流出していた。一方、沖縄トラフ北端に起源をもつ低塩分水塊は、黒潮の北側に形成される暖水舌または暖水渦の北側のフロントに沿って移流され、大隅海峡付近で塩分を高くし、北太平洋に流出、大陸棚斜面域に起源を持つ低塩分水塊と合流することが解った。 新型コロナウィルスの流行により本研究で利用する練習船かごしま丸の運航計画と乗船者数が変更され、2020年度に計画していた他機関との観測が次年度以降に先送りされ、予定外に本研究のための観測時間が確保できた。そのため、急遽本研究の観測を6月16-18日に実施した。低塩分水塊の出現域である大陸棚斜面域から黒潮前線域に3本の観測線を設置し、28測点で船舶に装備されているCTDシステム(塩分、水温、圧力、クロロフィルa、溶存酸素量)の観測と栄養塩量を分析するための海水サンプル採水、L-ADCP(超音波流速計)観測などを行なった。観測結果から、大陸棚域から黒潮前線域に移流された低塩分水塊を直接観測することができた。水塊の中心は深度80m付近であり、クロロフィルa極大層よりも深度が深かったため、栄養塩が消費されないまま下流に移流されると考えられる。予算の関係で栄養塩の分析を2020年度に行えなかったため、サンプルは厳重に冷凍保管した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の計画は(1)低塩分水塊の移流経路と消滅過程を示す、(2)出現数の季節・経年変動を再解析データから示す、ことであった。 (1)については概要に示した通り、2020年度は解析方法を変更し、低塩分水塊の流量が多い例について事例解析を試行した。この過程で東経128度付近の断面での低塩分水塊コアの流量からその移流の規模が分類できそうなことが解ったので、断面に沿うコアの流量の上位50%について事例解析から移流経路とそれに沿う塩分の変化から消滅過程を整理する、という今後の解析方針をたてた。 (2)については、概要には示さなかったが解析はほぼ完了している。変動要因については推測していたとおり、季節変動は黒潮の渦活動の季節変動とおおよそ一致した。経年変動については黒潮の渦活動の経年変動とおおよそ一致した。 【2020年度の計画外の進展】新型コロナウィルスの流行による「かごしま丸」の運航計画や乗船定員が変更され、6月の観測航海で実施が予定されていた学外の研究機関との共同観測などがキャンセルになり、本課題の観測を入れる時間的余裕ができた。2021年度以降の運航計画も不透明なため、2021年度以降に実施を予定していた本研究の観測を前倒しして行なった。本課題で購入予定の観測機器を航海までに購入できなかったため高解像度観測は出来なかったが、クロロフィル極大層よりも下層に出現する低塩分水塊をとらえ、その栄養塩サンプルを取得できた。新型コロナウィルスの流行により2021年度に先送りされた本研究以外の観測のために、2021年度に観測に確保できる時間は予定より減ったが、大陸棚斜面域での観測を行なう予定である。
区分選択の理由:当初のデータ解析は(1)については遅れ気味ではあるが、2021年度に計画していた観測を実施できたので、全体としては概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度にやり残した(1)低塩分水塊の移流経路と消滅過程を示す、についての解析を完了させ、(2)低塩分水塊の出現数の季節変動・経年変動の解析結果と併せて成果をまとめる。2020年度に高解像度とはいかないものの、クロロフィル極大層よりも下層に出現する低塩分水塊をとらえ、その栄養塩サンプルを取得できた。冷凍保管してある栄養塩サンプルの分析を行ない、CTD観測、L-ADCP観測結果と併せて解析を行ない、低塩分水塊による栄養塩輸送量を見積もる。さらに、引き続き「かごしま丸」により、RINKO Profilerを使用した高解像度の観測を大陸棚斜面域で行なう。2020年度は3本の観測線を設置し、低塩分水塊の空間変化をみられるデータを取得した。2021年度は観測線で往復観測を行ない、時間変化を捉えることを試みる。
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