研究課題/領域番号 |
20K04064
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤澤 由貴子 慶應義塾大学, 自然科学研究教育センター(日吉), 研究員 (00868185)
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研究分担者 |
杉本 憲彦 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (10402538)
森本 睦子 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 助教 (50435509)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 衛星間電波掩蔽観測 / 観測システムシミュレーション実験 / データ同化 / 金星大気 / 大気大循環モデル |
研究実績の概要 |
金星探査機「あかつき」の観測により、2015年12月以来、紫外イメージャ(UVI)の画像の雲追跡から得られる水平風速、中間赤外カメラ(LIR)の画像から導出された温度の水平分布、電波掩蔽観測から得られる温度の鉛直分布等の金星大気データが蓄積されてきている。本研究では、複数の小型衛星を用いた衛星間電波掩蔽観測観測や様々な波長帯のカメラ衛星観測を想定して、あかつきの観測上の制約を取り払い、観測範囲(昼面、夜面、観測緯度帯)、観測頻度をさまざまに変えた観測システムシミュレーション実験(OSSE)を行い、その観測の有効性を調査している。
令和2年度、3年度に実施した惑星規模の赤道ケルビン波の再現実験では、UVI画像の雲追跡から得られる水平風速を想定して、山本勝准教授(九州大学)から提供を受けた金星大気大循環モデルMIROC-VGCMの出力を用いた疑似観測、及び神山徹主任研究員(産業総合研究所)から提供を受けた線形3次元波伝播モデルを用いて赤道ケルビン波を顕著に再現した疑似観測により、赤道ケルビン波擾乱を適切に再現できる観測条件を探索し、赤道ケルビン波の運動量輸送を定量的に見積もることができた。
令和4年度では、LIRから得られる温度の水平分布を想定して、金星大気大循環モデル AFES-Venusの出力を用いた疑似観測により、熱潮汐波を適切に再現できる観測条件を探索した。その結果、あかつきのLIR観測と同様の6時間に1回の限られた頻度、昼側観測のみであっても、熱潮汐波の3次元構造は温度だけでなく水平風においても大幅に改善されることが分かった。また、高度60~80kmの東西平均東西風(スーパーローテーション)についても、熱潮の垂直運動量輸送を通じて、全球的に改善された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、衛星軌道や観測条件を様々に設計し、ターゲットとする大気現象が適切に表現されたモデルの出力から疑似観測データを作成し、データ同化を実行してその観測を評価する、という3つの研究を再帰的に繰り返し、適切な観測条件を探索するため、1つのテーマのOSSEに対して多数の試行が必要となる。 令和2年度は、衛星間電波掩蔽観測を想定した2種類のOSSEに加え、様々な波長帯におけるカメラ観測を想定した2種類のOSSEを実行した。研究計画当初に挙げた4つの大気現象(①スーパーローテーション、②コールドカラー、③惑星規模赤道ケルビン波、④熱潮汐波)の再現性調査を実施し、有効な衛星軌道や観測条件について調査した。 令和3年度、4年度では、令和2年度に行った、カメラ観測を想定した「③惑星規模赤道ケルビン波再現実験」「①スーパーローテーション」「④熱潮汐波」のOSSEについて、観測条件についてより深い考察を得るため、疑似観測データとAFES-Venusの基本設定をより簡素化してデータ同化実験を行った。本実験結果は国際誌に掲載された。 令和2年度に行った4つの実験のうちの衛星間電波掩蔽観測を想定した「②コールドカラー」のOSSEについては、観測条件や現象の再現性に対する考察がまだ不十分であったため、さらに新しい条件でのOSSEを実施し、適切な観測条件を探索し、結果をまとめているところである。また、金星の大気観測でみられる代表的な惑星規模波動のひとつである「ロスビー波」について、神山徹主任研究員(産業総合研究所)より、線形3次元波伝播モデルを用いてロスビー波を顕著に再現した疑似観測の提供を受けて新たなOSSEを実施し、その再現性の条件について探索を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である今年度は、令和4年度に国際誌に掲載された「③熱潮汐波」のOSSEについて学会研究会での発表、「④コールドカラー」のOSSEについて、国際誌への投稿等を行い、結果のとりまとめを行う。また「惑星規模ロスビー波」について、その再現性の条件について探索を行う。熱潮汐波や赤道ケルビン波がスーパーローテーションの加速に寄与し、ロスビー波が減速に寄与すると考えられていることから、スーパーローテーションの時間変動とその要因解明の足掛かりになるよう、新たな観測に対しての観測条件とその有効性を探索し、今後の金星探査ミッション立案のアイデアを提供する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は、研究旅費については計画通りに使用し、消耗品、人件費・謝金についてはプログラミングによる解析の効率化や多くの研究者の研究協力により削減された。最終年度である今年度は、実施した研究を取りまとめ学会発表や学会誌に投稿することを予定しており、学会参加費、投稿料、英文校閲料での使用を計画している。
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